郊外にある大型ショッピングモールの一角。スクールゾーンに並ぶ教室の中でひと際目につく白衣姿の子供たち。1人1台与えられた顕微鏡を覗き込み、発見したものの形状や気づいたことをつぶさに記録していく――。
これは、理科の実験を専門に教える「サイエンス教室」のひとコマである。栄光ゼミナール、学研、市進といった学習塾が、一般的な教科とは別に理科実験教室をオプションで始め、5~6年前からは専門教室を開校する教育関連企業も増えだしたという。主なサイエンス教室と、小学校低学年のユニークなカリキュラムの一例を紹介しよう。
■サイエンス倶楽部(22教室、幼児・小学生・中学生各コース)
「ひえひえバンバン」ドライアイスで遊ぶ(1年生)、「熱気球を飛ばそう」自作の熱気球を使って空気・気体の仕組みを知る(2年生)
■ヒューマンキッズサイエンス理科実験教室(約100教室、原則小学生が対象)
「不思議な万華鏡を作ろう!」「浄水器のしくみ」「ECOな液体でECOスタンプ」「キラキラ星座盤を作ろう!」※いずれも初級コース
■ベネッセサイエンス教室(4校、幼児<年長>~小学6年生まで)
「地球を分解!」土壌の構成物質を理解する(1年生)、「ダンゴムシの不思議」ダンゴムシのからだのつくりや行動を理解する(2年生)
サイエンス教室が人気の理由について、安田教育研究所代表の安田理氏が語る。
「豊富な実験器具を使って、子供たちが科学に興味を示すようなカリキュラムや仕掛けをたくさん用意しています。学校では白衣を着たりゴーグルを装着したりするような実験はしませんから、まるで『小さな科学者』気分を味わうことができるのです。また、授業風景は外のガラス窓から見学することができるので、親たちは子供の嬉々とした表情を見ながら目を細めている。実にうまいビジネスです」
近年、田中耕一氏、小柴昌俊氏、そしてiPS細胞の山中伸弥氏と日本人科学者が相次いでノーベル賞を受賞したことも、人気に拍車をかけている要因だという。「未来の山中教授を目指せ!」というわけである。
しかし、学習指導要領で理科教育の強化が図られる中、学校の実習でもそれなりに事は足りるはず。わざわざ高い授業料を払ってサイエンス教室に通うメリットは何なのか。
「公立の学校では児童1人に1台顕微鏡が与えられるほど器具は充実していませんし、なによりも先生が理科を好きか嫌いかで指導熱にバラツキが出てしまう。文系出身の先生がつまらない授業をすれば、子供の“理科離れ”が進んでしまうのです」(安田氏)
そうした事態をいちばん危惧しているのが、教育熱心な親たちだと安田氏は指摘する。
「大学の理系学部出身者は文系に比べて正規社員の割合が高いというデータが出ています。親は子供の将来に少しでも有利なようにと、例えば中学受験でも理系大学への進学者が多い学校を選ばせる傾向が強まっているのです」
就職事情を案じるのは、男の子を持つ親ばかりとも限らない。一時期、理系に進む女子のことを“理科女(リカジョ)”と呼び、その行動パターンや性格などを分析するブームが起きたが、いまや理科女も珍しい存在ではなくなった。
「親たちは女の子にも一生仕事を続けて欲しいと思っています。たとえ腰かけで就職、後に寿退社しても、再度就職できるチャンスは巡ってくる。そのときに、何か資格があったり手に職を持っていたりすれば、職場復帰に有利です。そこでイメージされやすいのが理系なんです」(安田氏)
サイエンス教室には女の子の姿も多い。偉大な研究者にならなくていいから一生安泰な人生を送ってほしい――という親たちの切実な願いを、「小さな科学者」たちは背負っているようだ。