戦う女性をイメージしたよろい風、すずと軟鉄製のカップ――女性用下着メーカーのトリンプ・インターナショナル・ジャパンが先日、世相を反映するブラジャーとして、「女性維新ブラ」を発表した。オリンピックをはじめ、世界的な活躍が目覚ましい女性たちを応援する気持ちを込めたという。
確かに女性の活躍は目覚ましい。だが一方で、あるいはそれだからこそ、女性らしさを包むブラジャーには癒しを求める傾向も強まっているようだ。ここ数年、“ゆるブラ”とも言われるワイヤーなしのブラジャー市場が広がっている。
総合雑貨店「無印良品」が今年3月に発売した「ノンワイヤーブラジャー」は、売り上げが計画の3倍で推移する滑り出しを見せた。綿主体の素材を使い、肌にあたる縫い目を少なくするなど刺激を抑えて着心地の良さを実現し、20~30代の若い購入者が増えたという。
通販大手のセシールの人気商品は、独自の3D立体加工を施した「3D-BRA(R)」シリーズだ。ワイヤーなしでもバストが広がらず、ぷるんとした上向きバストを創り出す。今冬発売された40周年記念アイテムは、贅沢な質感のサテン生地を使用し、ラクな付け心地と上質感を両立させている。
婦人下着最大手ワコールの子会社ウンナナクールは、2010年から“造形性のあるノンワイヤーブラジャー”をコンセプトとした「FUN FUN WEEK」の発売を始めた。1年間で10万枚売り上げるという人気シリーズで、昨年からはアーティストとのコラボレーションを開始。現在、前衛芸術家・草間彌生(くさまやよい)氏デザインのブラジャーが人気を博している。
百貨店の下着売り場の40代店員も、ワイヤーなしを求める女性は増えていると語る。「かつてノンワイヤーと言えばスポーツブラというイメージが強く、ラクだけど胸の形が綺麗に見えない、ブラジャー自体は可愛くないものが多かったんです。ですが、ここ数年で、質もデザインも進化しました。ワイヤー入りは、胸のサイズにきちんと合っていないと痛くなったり、痕が付いたりしますよね。その点、ワイヤーなしは、付けている本人も、見た目にも、柔らかい胸を維持できる。しかもリーズナブルです」
こうした流行の背景には、社会情勢も関係しているようだ。ブラジャー研究家の青山まりさんは、ゆるブラブームをこう見る。
「景気を反映している一面があります。数年前まで“よせてあげて”ブームが続きましたが、不景気になって、女性たちも多くのストレスを抱えている。癒されたい、リラックスしたいという気持ちが、ラクなブラジャーへ向かわせている要因となっています。日本人の胸も大きくなってきて、頑張って大きく見せる必要がなくなってきたという面もあります」
さらに、付ける側だけではなく、売る側の事情もあるようだ。
「日本は、ブラジャーのサイズがJIS規格で決められており、アンダーバストサイズは5センチ刻み、その上にカップサイズは、2.5センチ刻み……と、非常に細かいのです。このため、メーカーや販売店は在庫管理が大変という一面があります。一方、ノンワイヤーのソフトタイプは、S、M、Lとサイズの種類が少ないため、在庫管理の面で効率が良いという点がありますね」
なるほど、ゆるブラが増えるわけである。とはいえ、常時ゆるブラでよいのかと言えば、そうではないと青山さんは指摘する。ワイヤー入りの機能性はやはり見逃せないようだ。
「よく、家に帰ったらブラジャーを外してしまう、という声を聞きますが、“下垂”しない綺麗なバストを維持するためには、外してしまうのではなく、外出時と家でのブラジャーの使い分けがおすすめです。ワイヤー入りはお肉を胸に寄せ、形を整えますから、外出時は、補整を目的としたワイヤー入りのしっかりとしたブラジャーをつける。家では、身体に負担の少ないノンワイヤーに着け替えるのです」