総選挙が12月16日に行なわれるが、すでに「気分は5年ぶりの総理大臣」なのが安倍晋三・自民党総裁だ。総選挙はこれからというのに、解散が決まった途端、
「大胆な補正予算を組むべき」
「大胆な金融緩和を行なわなければならない」
――と「大胆」を連発してフライング気味の所信表明をしている。
なにしろ、霞が関は自民党の政権復帰が悲願。野田首相が予算編成を放り出したため、国交省は自民党幹部たちに予算増額を働きかけている。「財務官僚はあまり大胆すぎる予算を組まれたら困るから、早くも安倍総裁を『総理』と呼んで予算編成の相談に日参している」(自民党中堅)というから、浮かれ気味になるのもやむなしか。
もっとも、安倍氏が総理返り咲きを果たすと厄介な問題が待ち受ける。先の自民党総裁選の際、安倍氏は「前回の総理在任中に靖国神社に参拝できなかったのが痛恨の極み」と語り、「保守派」の旗幟を鮮明にしたことが総裁選での勝因の一つとなった。だが、党内からは「これは野党の党首選だから断言できたこと。総理となったら同じことはいえない」(宏池会所属議員)という心配が上がっているのだ。
「安倍さんは前回の総理時代、前任の小泉総理が靖国参拝をして緊張が高まっていた日中・日韓関係を改善するために、最初の外遊先に中国と韓国を選んだ。今回も尖閣・竹島問題で中韓との関係が悪化している。さすがにこの状況下では、所信表明で“靖国に行く”とはいわないだろう」(安倍側近)
一方、靖国神社崇敬奉賛会顧問の高森明勅氏はこう分析する。
「断固参拝すべきだと思うが、現実には難しいのではないか。その場合、保守系の熱狂的支持者らが『裏切られた』と一斉に批判に転じ、それを皮切りに支持層が大きく崩れる可能性があります」
野田首相を「嘘つき」と批判しまくったツケが回ってくるか。
※週刊ポスト2012年11月30日号