「ここ数年、各局とも年間100億~150億円単位で番組制作予算を削っている。この10年で半分から3分の1になり、その煽りを受けて、昨年から番組制作会社の倒産ラッシュが起きています」
こう話すのは、孫請けに当たる制作会社の経営者だ。『ワンチェーン』と呼ばれるロケ隊がある。カメラマン、音声、アシスタントの3人ユニットのことで、ワイドショーやグルメ番組などで重宝される。人員を出すのは主に下請けや孫請けの制作会社だ。このワンチェーンに対し、キー局が支払う日当はかつて18万円程度だったが、今や10万円を切っているという。
「収支が合わないから1人3役でロケをこなすなど無理を続け、体を壊す者が後を絶たない。1回断わると二度と仕事はもらえないから、どんなに低い報酬でもやらざるを得ない。また、別の番組も発注するとの条件で、深夜番組の制作を1本50万円で依頼されたこともある。BSの30分番組でさえ120万円が相場なのに、50万円では儲けなど出るわけがない」(同)
独立系の制作会社幹部はこう嘆く。
「入社した若者の半分は半年以内に辞めます。20代の契約ADの年収は240万円程度だが、キー局社員なら同じADでも年収700万円超。この収入格差は年齢を重ねるほど開いていく」
局社員の平均年収は、フジメディアホールディングスの1510万円(平均44歳)を筆頭に、各局1300万~1400万円前後。これはあくまで平均で、プロデューサーとなれば40代で年収2000万円というケースもザラだ。
「おまけに契約ADは1年を通してほぼ無休で1日16時間労働も珍しくない。『面白い番組を作りたい』という当初の情熱も、日々の激務で摩耗してしまうのが現実です。クリエイティブな仕事を求める若者は今やテレビに見切りをつけ、ネットなどに移っている。結果、今の制作現場はルーティンをこなす疲労感だけが充満しています」(前出幹部)
“電波利権”をフル活用して儲けるテレビ局と、安くこき使われる下請けの格差はますます開き、番組の質を左右する制作の現場はもはや崩壊している。
■津村雅希(ジャーナリスト)
※SAPIO2012年12月号