首都圏で働くサラリーマンの気軽な昼食メニューとして人気を集める低価格そばチェーン。立ち食いそばから発展したこの業態は「安い・早い・旨い」の代名詞として一定の市場を形成してきたものの、ここにきて“伸びきった”状態となっている。
市場調査会社の富士経済によると、クイック提供を掲げる「立ち食い・セルフ式そばうどん」の市場規模は2012年こそ2245億円と対前年比で104%の着地に収まる見込みだが、今後の伸び率は鈍化する傾向――と予測されている。
その理由はなぜか。外食ジャーナリストの中村芳平氏が解説する。
「2006年ごろから急成長を遂げた『丸亀製麺』や『はなまるうどん』にシェアを奪われているからです。また、牛丼やハンバーガーチェーンなど、他のファストフード店との争いも激化していることから、なかなか出店拡大に踏み切れないのが現状です」
それでも、うどん勢力に対抗すべく健闘を続けるそばチェーンはある。首都圏1都3県に92店舗を展開する「名代 富士そば」、直営・FCとの両にらみで100店以上の店舗を誇る「ゆで太郎」、そして、中央区・千代田区・港区など都心部への集中出店で88店を運営する「小諸そば」の3大チェーンがその代表格といえる。
しかし、FC展開でもっとも店舗数を増やしやすい「ゆで太郎」ですら、1年間に20店程度の出店にとどめるなど、慎重な経営に徹している。破竹の勢いで724店をフル稼働させる「丸亀製麺」との差は開く一方だ。
そばチェーンが多店舗展開を図れないのにはワケがある、と前出の中村氏。
「そばはうどんに比べて味にうるさい日本人が多いため、400円~500円の客単価を維持しつつ固定ファンを手放さないためには、品質で勝負するしかないのです。『ゆで太郎』は店内での製麺、野菜のカットにこだわっていますし、他のチェーンも機械打ちとはいえ製麺方法に工夫を凝らして、そば通をも納得させる味に仕上げています。コスト削減ができづらい分、出店も増やせないのです」
既存店の収益を守りつつ拡大路線に転じるには、もはや多様化しかない。「富士そば」が10月に東京・渋谷で「だったんそば」の新業態店をオープンさせたのは、その意思表示とも取れる。
「高血圧の予防になると評判の『だったんそば』は真新しいそばメニューではありませんが、わざわざ専門店をつくって拡げようとしているのは、健康志向の高い人や女性客など幅広い客層をつかもうとしている証拠。ただ、苦みがあってクセのあるそばだけに、いくら『富士そば』ブランドとはいえ、どこまで通用するかは未知数です」(中村氏)
一方、「ゆで太郎」が年内に台湾への進出を予定するなど、海外に活路を求める動きも出てきた。
「いまは素人でも自分でそば粉を取り寄せて手打ちする時代。チルド食品で生めんタイプのそばもどんどん進化していますしね。ただでさえ外食産業が厳しい中、そばチェーンは少しでも“鮮度”を落とせばすぐに淘汰の対象になる厳しい業態といえます」(中村氏)
さて、大晦日の年越しそばで、どこまで低価格チェーン店の支持が集まるか。注目したい。