2011年の稽古・習い事市場は1兆6300億円(矢野経済研究所調べ)。震災後、縮小傾向にあったが、いま回復基調にあるという。2012年5月に行われたインターネット調査では、20~60代で習い事をしているのは12%、女性が男性の2倍という結果だった。だが、習い事はOLの嗜み、という従来のイメージは、変わりつつあるようだ。
セブン&アイグループが運営するカルチャーセンター・池袋コミュニティカレッジは、今年の夏、「新・男の学校」を開校した。中心になる講座は、書、日本画、武術、古典の精読など、深遠な和の世界を学ぶもの。他にも、ベストセラー編集者による企画講座やTOEIC講座など、ビジネスに役立ちそうなラインナップを揃える。
池袋コミュニティカレッジによると、この学校、30~40代の男性に人気だという。「時間にゆとりのある団塊の世代の方々の受講が多いと想定していましたが、若い方が多い。いまは独身の方も増えていますし、自分への投資として通われる方が多いようです」(広報)。10月からは、朝7時台から始まる「朝活」コースも開校、人気講座はビジネスマンで満席近くになるという。
ABCクッキングが男性も通える料理教室「ABC Cooking Studio+m」をオープンしたのは2007年。その後、ベターホームをはじめ男性向け料理教室は続々とオープンし、「料理男子」という言葉もすっかり定着した感がある。その他、茶道や華道といった伝統文化、ギターやピアノを弾く音楽教室も男性に人気のようだ。
男性の習い事増加の背景について、ニッセイ基礎研究所研究員の久我尚子さんは以下のように分析する。
「まず、趣味における性差のボーダレス化があります。団塊ジュニア以下の世代にはそれが顕著ですね。スイーツ男子、弁当男子が登場する一方で、鉄子や歴女が登場した。最近は、日曜大工を楽しむDIY女子も増えていますね。彼らが中高生だった1999年に、雇用機会均等法の改正があり、看護婦が看護師、スチュワーデスが客室乗務員と名称を変えました。職業における性差が薄まりつつある環境の中で成長したことが、意識の変化に影響していると思います」
また、経済環境の変化によって、会社以外の人生探しが進んでいるようだ。
「右肩下がりの経済成長が続き、会社の中で頑張っていれば安泰、の時代は終わりました。働き盛りの男性も外に目を向ける必要が出てきています。その一つが習い事。仕事に直結する勉強をする、直結せずとも異文化に触れることで新たな着眼点を得る、あるいはプライベートを充実させてリフレッシュするなど、会社以外での模索が始まっています」
料理、茶道、ピアノ……かつての女の園へ足を踏み入れ始めた男たち。とはいえ、一歩中に入ると、求めるものは男女でちょっと違うようだ。習い事に詳しく、生活情報サイトAllAboutの「おけいこ」ガイドも務める山口佐知子さんはこう語る。
「女性は、どちらかと言えば、すぐに役に立つことや、1回で身につくことなど、リターンが目に見えやすいタイプの習い事が好きです。一方男性は、多少時間はかかっても体系的に学びたい、“~道”のように極めたいという希望を持つ人が多い。
例えば料理教室では、女性は、“いかに手間やお金をかけず、おいしくて見栄えのいいものを作るか”がポイントになることが多いですが、男性は真逆。時間とお金をかけて、自分の手でイチから作ることに喜びを見出すんですね。男性に人気のパスタ教室は、麺作りから始まる本格派。以前、小籠包を皮から作る講座を取材したのですが、受講希望男性が4000人も集まったといいます」
男性の“本格”“体系”志向に即し、ユニークな講座も登場している。丸の内朝大学で好評の「富士山雑学登山クラス」は、富士山の歴史や自然等について学び、フィールドワークで登山の練習をし、最後は実際に富士山に登って山頂を目指すというもの。新たな顧客と講座の誕生で、習い事市場は活気づいている。