「アジア最後の未開の地」と呼ばれるミャンマーに日本企業の進出が相次いでいる。「今後、ビジネス・観光目的で同国を訪れる旅行者数の急増が予想されている」として、11月26日にもジェーシービー(JCB)がクレジットカードの取り扱いで現地企業との協業を発表したばかりだ。
帝国データバンク調べによると、10月末時点でミャンマーに進出する日本企業は91社にのぼり、2010年に比べて75%の増加になった。業種も商社、ゼネコン、通信、電機、医療機器、ソフトウェア、縫製業など多岐にわたる。まずは、主な企業のミャンマーでの事業計画について挙げてみた。
■大和総研・KDDI・富士通/ミャンマー中央銀行の基幹IT網の整備を受託
■三菱商事・住友商事・丸紅など商社連合/ティラワ経済特区の大規模工業団地で事業化調査を開始
■丸紅・日立製作所/ヤンゴン近郊の火力発電所の改修事業を受託
■NTTグループ/現地のインターネット回線の増強などを支援
■ハニーズ(縫製業)/4月に日本向け婦人服の縫製工場が稼働
その他、大林組、ローソン、日本通運、ヤマハ発動機、ホンダなど錚々たる顔ぶれがミャンマーに駐在員事務所の立ち上げを予定しており、虎視眈々とビジネスチャンスをうかがっている。
ここにきて、堰を切ったように日本企業が“ミャンマー詣で”をしているのはなぜか。
「昨年、約40年続いた軍事政権が大きく政治運営を変え、テインセイン新政権が民主化へ舵を切りながら海外企業からの投資を呼びかけるなど経済政策に力を入れ始めました。また、同国への経済制裁を続けてきた米国も今年9月にクリントン国務長官がミャンマー製品の禁輸措置を解除すると表明するなど、日本にとって経済進出の足かせだった懸念材料がどんどん外れました。そこで、外務省が主導する形で企業のミャンマー投資が熱を帯びているのです」(全国紙記者)
ミャンマーは道路・鉄道・通信・電力などインフラ整備が遅れているだけに大きな開拓需要が見込めるばかりか、地下には天然ガスや石油、レアメタルなど豊富な資源が眠っている。さらに製造業にとっては反日暴動で手痛い損害を被った「チャイナリスク」からの分散を狙って、ミャンマーに工場を移そうという動きも盛んだ。
しかし、「いまはムードに押し流されているだけ。よほどの決意がないと痛い目に遭う」と、警告するのは評論家の宮崎正弘氏。
「米国が介入するまでミャンマーは中国の経済的影響下にあり、第2の都市であるマンダレーは、いまなおスクーターから電化製品に至るまで中国企業が支配しています。中国のミャンマー政界におけるロビー工作の激しさに、弛んだ外交しかできない日本がどこまで挑む覚悟があるのか。国どうしの勢力図が進出企業に影響すれば、結局、チャイナリスクが場所をミャンマーに変えて再び襲いかかるといっても過言ではありません」
民主化で政治リスクが完全に払拭されるとも限らないという。
「ミャンマーの軍政は組織的に民主化されているので、相当根強いネットワークを持っていますし、国境地帯にいる少数民族の武装闘争はいまだに勃発しています。そうしたリスクも頭に入れなければなりません」(宮崎氏)
壮大なる経済発展への期待から、最大都市ヤンゴンではホテル代が東京並みに急騰したり、中国の5分の1だった労働賃金がストライキによって跳ね上がったりと、早くも“沸騰都市”となりつつある。
数々のミャンマーリスクを乗り越えて、大きなリターンに変えられる日本企業はどこか。