日本で“選挙コーディネーター”という仕事を始めた草分けとされるのが、井上和子氏。選挙コーディネーターは、選挙の候補者を当選させるべく、「参謀」として様々な助言をする人々だ。井上氏が選挙コーディネーターの仕事を始めた40年ほど前は、「神聖な選挙を商売にするとは何事か」という風潮があったという。
「昔は表選対、裏選対という言葉があって、現実には裏で“実弾”が飛び交っていた。私は報酬をクリアに、選挙対策も明確にして、『表』で戦ってきたから今までやってこれた」(井上氏。以下「」内同)
彼女は選挙コーディネーターという仕事を世間に認知させた草分けだ。井上氏は、依頼を受けた候補者を、未来型、現実型、過去型の3つに分類し、それぞれ戦略を立てる。
「たとえば、未来型の人は未来のビジョンを語りますが、具体性に乏しいので、現実化する手法を教えてあげるわけです。一方、現実型はビジョンや戦略を立てるのが不得手なので、それを提案します」
政治家は評論家ではないので、基本的には現状認識2割、未来ビジョン8割で語るくらいがちょうどよく、そういう方向へ誘導するという。
井上氏の指導は運動員にも及ぶ。
「電話をかけるときも、『今度の投票日には井上をお願いします』じゃ、やらないほうがマシ。『なぜ井上が皆さんにお願いをしているのか、1分でいいので聞いてください』と、この人でなければならない必然性と必要性を訴えるようにするのです」
しかし、絶対に勝ち目がないケースでは、あらゆる手段を使うこともある。相手にダメージを与えるために、市民団体を作って悪口をいわせたこともあるという。イメージを上げるのは本人、相手にダメージを与えるのは別団体なのだ。
やっかいなのは、選挙プランナー同士の戦いになったときだ。お互いの意地で必然的に熾烈な戦いになる。
「こっちの候補者の主張が有権者にウケて浸透してきたら、逆の主張をしていたのに、選挙投票日にこっちの主張をステッカーにして自分たちのポスターに貼った人がいたわね」
撮影■渡辺利博
※週刊ポスト2012年12月7日号