竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は「タクシーの運転手が遠回り。料金の支払いを拒否できますか」と以下のような質問が寄せられた。
【質問】
タクシーに乗った時のことです。運転手に行き先の近道を教えたのに、運転手はその道を通らず別の道を通ったため、安くなるはずの料金がむしろ高くなってしまいました。請求されるままに払ってしまいましたが、このような場合でも、運転手が請求するメーター料金を支払わないといけないものでしょうか。
【回答】
タクシーに乗車する関係は、旅客自動車運送契約に基づきます。この契約には道路運送法の適用があります。その第14条には、「一般旅客自動車運送事業者は、運送の申込みを受けた順序により、旅客の運送をしなければならない」と規定されています。タクシー運転手は、乗客の指示にしたがった道順をたどる義務があります。
この規定はタクシー事業者の遵守すべき規定であり、乗客との契約関係を直接規定するものではありませんが、乗客が指示する道順に従うのは当然のことです。道順を指示し、運転手が特に意見をいわずに運転を始めれば、指示通りの順路で運送する契約が成立したと考えられます。
そこで指示に反した順路を走ったタクシー運転手は、道路運送法第14条に違反しただけでなく、運送契約にも違反したことになります。第14条に違反すると50万円以下の過料の支払いが命じられることもありますし、事業者の免許にも影響します。もちろん、契約違反で高くなった分の料金支払い義務はありません。
しかし前記の第14条には、「ただし、急病人を運送する場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない」という例外規定があり、正当な事由があれば、指示された道順を通らないこともできます。「正当な事由」とは、例示されている「急病人搬送」のように、やむをえない合理的な変更です。
例えば、指定された道路が不通であれば該当します。渋滞予想の場合も、その程度によっては該当する可能性があります。そうではなく料金稼ぎ目的であれば、違法です。道順に従わないときは、それなりの理由があると思います。不審に思えば問いただし、説明がなければ、違反行為として会社に申し出てください。さらにその対応に納得できないときには、運輸局に相談するのもよいでしょう。
※週刊ポスト2012年12月7日号