日本で開催されるラグビーW杯まであと7年、世界が日本に目を向けるその時までにやるべきことは何か。ラグビー批評家の中尾亘孝氏が、どうすれば日本が強くなるかを語った。
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2019年、新国立競技場でラグビーW杯が見られることを、私は大変楽しみにしている。しかしその一方で、悲観論者の私は、不安にも苛まれている。日本代表は8強に残れるのか。そもそも、お客さんは来るのか――。
前ヘッドコーチ(HC)のジョン・カーワン(JK)は、日本の戦い方として「4H(速く、低く、激しく、走り勝つ)」を掲げた。しかし結論からいえば、これは何一つ実現されなかった。タックル成功率をはじめ、ジャパンが4年前より進歩したというスタッツはどこにも見当たらない。
おそらくJKは、日本の世界ランクを過去最高の12位まで上げたと誇るだろう。しかしこれは、W杯までの中間年に、ベストメンバーでない弱い国と戦ってランキングを上げていただけのこと。いわば予備校の模試で高得点を取って偏差値を上げ、自信満々で臨んだ入試で落第点を取るようなものだ。
確かに日本の実力を考えた場合、中間点で勝ちを経験しながら自信を高めていくのか、4年に1度の大会に照準を合わせて大輪を咲かせる方向に行くのか、選択を迫られる。それに選手は、よほど説得力のある強化方針が示されない限り、中間年で負け続けると自信を喪失するのも事実だ。そういう意味ではJKの方針は、プロセスとしてはマイナスではなかったかもしれない。
しかしJKの5年間は、反面教師にすべきことはたくさんあるが、はっきりいって、そのまま継承すべきことは無いに等しい。強いていうなら、カーワン・ジャパンで活躍した選手に、その経験を生かして次も頑張ってもらうことくらいだろう。
例えばマイケル・リーチ、ホラニ龍コリニアシ、堀江翔太、日和佐篤などは、優先的に代表に選ばれるべきだ。これに加え、高校生、大学生の中から19年用のスクォッド(チーム)を作ってしまうのも一案である。高校生も大学生も、自分の学校が一番というのがこれまでの常識だが、あえてその固定観念を捨て、日本代表を最優先として、合宿や遠征を繰り返すのだ。
それから、何より優先的にやるべきは、ファンを拡大させることである。ラグビーを知らない人たちに競技場へ足を運んでもらうためにも、日本語もたどたどしい外国人選手が入っているような、現在の日本代表の在り方を改める必要がある。偶然テレビを見た人に、「なんだ、みんな外国人じゃないか」という第一印象を与えることだけは、絶対に避けなければならない。
日本代表に感情移入してもらうには、日本人選手がゲームを仕切り、ペナルティ・ゴールを決め、トライ・スコアラーにならなければならないのだ。
もちろんラグビーの外国人選手にも、日本国籍に帰化した者や、日本に来てラグビーを始めた者もいる。外国人選手をゼロにすることはラグビー文化に反するうえ、日本人に欠けている肉体的要素を埋めてもらうことも必要だ。だが、現在はあまりにも多すぎる。代表メンバーで5人、先発に3人といった適切な人数を決める必要がある。
日本人の多くが求めているのは、小さな日本人が素早いセット&リセット、ポジショニング、リスタートなど、早め早めに仕掛けて、多くの局面で機先を制するスタイルだ。なでしこジャパンが爆発的な人気を得たのは、小さな日本人女性が、骨格の違う大きな海外の女性を翻弄し、劇的な勝利を収めたためである。ラグビーでもこれが実現できれば、必ずファンを拡大させることができるはずだ。
※週刊ポスト2012年12月07日号