『女性セブン』がぎんさんの娘4姉妹への取材を始めて1年余り。玄関を開けた途端に、いつもは4姉妹の明るい笑い声が響いてくる蟹江家。だが10月中旬に記者が訪ねると、家はシーンと静まり返っていた。取材の後、五女の美根代さん(89才)がこっそり打ち明けてくれた。
“大ゲンカ”が起きたのは1か月ほど前、朝から小雨が降りしきって肌寒い日だったという。その日、夕暮れ近く、三女の千多代さん(94才)は、あんねぇ(長女・年子さん・98才)にこう声を掛けた。
千多代さん:「なあ、今夜は風呂はどうするの。入るの、入らんの?」
年子さん:「うーん、今日は…入らんことにしようかな。ちょっと鼻がぐずぐずするでな」
茶の間でテレビを見ていた年子さんはそう答えた。それで千多代さんは、お風呂を沸かさないことにした。
夕食がすんで、千多代さんは台所で食器を洗っていた。すると、奥の浴室のほうでなにやら音がして、あんねぇの「千多代~、千多代~」という呼び声がする。
「今夜は入らん」と言った年子さんは、すっかりそのことを忘れてしまい、裸になって浴室へ足を踏み込んでしまったのだ。顔を紅潮させた年子さんが、ツカツカと台所にやってきて、スッポンポンのままで仁王立ちになった。
年子さん:「お風呂が沸いたかなあと、浴槽のふたを取ったら、お湯が入っとらんがぁ」
それから、ふたりの丁々発止の応酬が始まった。
千多代さん:「あんねぇは、今日は入らんと言うたじゃないの!」
年子さん:「いや、はっきり入らんとは言うとらんよ!」
千多代さん:「全く自分の言うたこと棚に上げてぇ…ボケちまったんじゃないのかね」
年子さん:「私はどうにもボケとらん! 千多代はいっつも私のことをボケた、ボケたと言って…ああ、こんな性格の悪い妹とは一緒におりたくないがね」
千多代さん:「そうか、そうか。そこまで言うんなら、ここに居てもらわなくてもいいよ。ここは私の家だがね」
売り言葉に買い言葉で、その夜から、ついにふたりはひと言も口を利かなくなってしまったという。
端から見れば、ちょっとしたすれ違いかもしれないが、当人たちにとっては、我慢の積み重ねが限界に達していた。
振り返れば、年子さんと千多代さんが、ひとつ屋根の下で暮らすようになって足かけ9年になる。それまで息子夫婦と暮らしていた年子さんだったが、万事嫁任せの生活をするうち、物忘れがひどくなり、認知症の一歩手前のような状態に。
そこで、姉の行く末をいたく心配した姉妹たちが話し合い、「あんねぇに家事をさせる訓練をしたほうがええ」と、千多代さんと同居することになったのだ。
が、共同生活ともなれば、自然とぶつかり合いも生まれてくる。ある時は夕食の味付けをめぐって、ある時はテレビの視聴時間をめぐってケンカになることもしばしば。
もっとも、きょうだいだからこそ修復も早い。
「仲がええだで、ケンカにもなる」――ふたりは心の中でそう思って暮らしてきたが、今年の夏ごろから、口ゲンカの度合いが増すようになった。
家事ひとつするにも、昔から千多代さんは段取りがうまく、てきぱきとこなす。
ところが、おっとりとした性格の上に、あと1年ちょっとで100才になる年子さんは、万事につけ動作が遅くなってしまう。
それを傍で見ている千多代さんは、「もっと早く動かんと、いずれ家事ができんようになってしまう」と気を揉むようになり、度々注意するようになったからだ。
年子さん:「千多代が“そんなのろいことしとると、ほんとにボケちまうよぉ”としつこいくらいに言うだがね。私のことを心配してのことだとわかっとっても、こう何度も言われると、やっぱり腹が立ってきて、私も憎まれ口を叩きたくなるがね」
※女性セブン2012年12月13日号