今回の総選挙は11月末時点で10を超える政党が乱立する前代未聞の選挙戦となった。そこで何より問題なのは、乱立の結果、選挙に行っても「死に票」が非常に増えそうなことだ。民主、自民の2大政党の事実上の一騎打ちだった前回総選挙は当選した候補の大半が50%以上の得票率だった。
しかし今回は、例えば東京14区や神奈川3区などでは、政党要件を満たす政党だけでも民主、自民をはじめ、第3極の維新、未来、みんな、そして共産党から6人の候補が出馬して20数万票を争う大接戦が予想されている。各候補が横一線だった場合、得票率が2~3割程度でも当選する可能性が出てくる。
すなわち残り7~8割の有権者は自分の投票が政治に反映されない「死に票」になってしまうのだ。投票数ではなく、棄権を含めた有権者全体で見るとおそらく8割以上という空前の死に票の山ができてもおかしくない。
そうならないためにはどうすればいいのか。選挙運動の研究が専門の岩渕美克・日本大学法学部教授は「これほど複数パーティ、複数イシューの選挙は外国を含めて記憶にない。こういう時の投票行動として、『落とす』ことを優先するのも立派な選挙の目的です」とこう指摘する。
「地元のXという政治家に議席を与えたら裏切られる、あるいは望む政策とは逆を主張するX党の候補は落としたい、と考えるなら選挙に行かなければならない。その場合、Xの次に有力な『よりましな候補』を選ぶのが現実的なのです」
当選させたくない候補者を落とし、実行してほしくない政策を阻止する〈落選運動〉である。
本誌は米国や韓国、インドなどで〈落選運動〉が政治の改革に大きな成果をあげたことを報じてきた。今回の総選挙で投票先に迷っている有権者には、自分の望む政策を掲げた政党が複数ある場合に「本当にやってくれるのか」と疑心暗鬼で投票するより、自分が反対する政策を掲げる政党の躍進を阻止する方が1票を有効に使うことができる。
前述のような“3割当選”が発生する乱立選挙区で、拒否したいX候補を落選させることができれば、X候補以外に投票した7~8割の有権者はたとえ自分が投票した候補が当選できなくても落選運動の目的を達成して「死に票」にはならないという考え方になる。
※週刊ポスト2012年12月14日号