殴り、殴られる。リングの上には2人の拳、それしかない。拳が当たった瞬間、顔はゆがみ、鮮血が飛び散る。あまりにも暴力的で原始的で、そして残酷だ。だがかつて、寺山修司や三島由紀夫が魅せられたように、ボクシング──本能的な殴り合いは、われわれを惹き付けてやまない。
写真家の福田直樹もまた、ボクシングに魅せられた一人だ。36歳で渡米し、以来、11年にわたってボクシングを撮り続けている。福田は、「ボクシングの本場アメリカで勝負したい」との一念で、独学のカメラで勝負を挑んだ。
今や、「試合を決定付けたパンチの瞬間を捉える」と評価され、全米ボクシング記者協会のアクション部門最優秀写真賞を2011年、2012年と連続受賞する快挙を成し遂げた。一人の日本人が、本場で栄誉を勝ち取ったのだ。ここで紹介したのが、年の全米ボクシング記者協会の最優秀写真賞を受賞した写真だ。
「試合中に訪れるシャッターチャンスは、1~2度です。私は、強者に波長を合わせて、その人の目になって相手を見ます。スキを見つけたとき、シャッターを押すんです」
福田が切り取った「瞬間」は、男たちが放つ拳の怖さを何よりも物語っている。ゆえに、人々を魅了するのだろう。
撮影■福田直樹
※週刊ポスト2012年12月14日号