竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は「別れた前妻が息子と会わせてくれない。どう対応すればよいか」と以下のような質問が寄せられた。
【質問】
今年の春、離婚しました。協議離婚なので特に大きな問題はないのですが、3歳になるひとり息子と容易に会えないのが困ります。親権を持たせた妻と別れる際、書面では月に一度は息子と会えると署名したのに、彼女の実家が強硬に会わせないようにしているのです。父親としてどう対処すればよいですか。
【回答】
離婚に当たって約束した面接交渉を実施しない前妻に約束を実行させるためには、裁判所での命令が必要です。協議離婚に際して、子どもの監護についても夫婦で決めることができ、監護について必要な事項として、面接交渉の方法についても定めることがあります。
例えば、会う回数や時間・場所などを決めるのです。ところが、その約束を文書でしても、強制することはできません。強制力を持つためには、家庭裁判所の力を借りる必要があります。
具体的には、家裁に子の監護に関する調停を申し立て、前妻と調停委員を交え面接交渉の方法について協議し、まとまらなければ審判という裁判を受けます。調停や審判で前妻が面接交渉に応じることが義務付けられたときは、その内容に従って履行するよう求めることができます。
それにも拘わらず、なお前妻が応じないときには、家庭裁判所から子どもと会わせるようにと履行勧告を受け、さらに無視すれば、間接強制となり、実行するまで一定額の金銭の支払いを命じる方法で実行させることが可能です。
ただし、間接強制ができるのは、面接の頻度、時間、面接日、面接の方法について、具体的かつ明確に決まっている場合です。そうでない場合でも、家庭裁判所の履行勧告に従わないことが父親の権利を侵害する不法行為になり、慰謝料の支払い義務を負わせることで、事実上強制することが可能です。
しかし、大事なことがあります。面接交渉は親の権利というより、子どもの福祉のために認められた制度ということです。そこで子どもの利益や立場を中心に考える必要があります。子どものペースを無視する面会を求めたり、母親との葛藤について子どもに心理的負担をかけたりする可能性がある場合には、そもそも面接交渉が認められないことがあります。
※週刊ポスト2012年12月14日号