テレビ番組の人気バロメーターとして50年も続けられてきた視聴率の測定方法が大きく変わろうとしている。視聴率を調査しているビデオリサーチ社が、録画したテレビ番組の視聴状況を分単位で調べられる技術を開発したからだ。
これまでの調査は、リアルタイムの放送時間中にどれだけの人が見たかをサンプル抽出するのみだったが、「時代遅れで測定漏れの“穴”が多すぎる」(業界関係者)と揶揄され続けてきた。
リサーチ評論家の藤平芳紀氏が、旧態依然としていた視聴率調査の欠陥を指摘する。
「ネットの普及やライフスタイルの変化に伴い、据え置き型のテレビで一家揃ってリアルタイムの番組を見るなんて人は減りました。家族それぞれが見たい番組を録画したり、パソコンや携帯などワンセグ機器を使って外で見たり、視聴形態が多様化しています。
にもかかわらず、いまの視聴率調査は世帯に測定器をつけるだけで、関東地区はわずか600世帯のサンプルのみで代表性を持たせていました。ましてや、個人情報保護の観点から調査対象世帯をランダムに抽出するのが難しい状況でした」
NHK放送文化研究所の調査でも、1週間のうちNHKの番組を録画して5分以上再生した人の割合が2008年で11.3%だったのに対し、今年の6月は20.2%と倍近い結果が出たという。
「大河ドラマで平均11%台とワーストワンの視聴率に喘ぐ『平清盛』だって、録画での視聴率を加味すればもっと数字が良かったかも……」(NHK関係者)と局内から“負け惜しみ”が出る始末。だが、そんなことを言っていられるのも、受信料収入で成り立つ公共放送ならではのこと。
視聴率イコール、スポンサーの広告価値で判断される民放にとって、「視聴率低迷=番組打ち切り」を意味する。いくら質の高い番組を制作しても、視聴率が悪ければ価値が認められないのがいまのテレビ業界である。
そこで、注目されているのがネット上の口コミやつぶやきによって視聴者が増える「バズ(マーケティング)効果」である。ビデオリサーチでもツイッターの投稿件数を元に視聴者の反応を測る新しい指標づくりに乗り出すことを表明した。番組に対する視聴「質」評価を高めていこうというのだ。
しかし、質的な調査方法も「諸刃の剣になり兼ねない」と話すのは、前出の藤平氏。
「低視聴率の番組でも高評価のつぶやきがたくさんあればスポンサーへの言い訳の材料にできますが、悪い評価ばかりでは見せられない。しかも、ネットの感想は統計調査と違って、いわばアンケート調査に過ぎず、得られた評価が代表意見の縮図になっているとは限りません」(藤平氏)
様々な尺度が登場することで、テレビ番組は“視聴率至上主義”から脱却することができるのだろうか。