危機に瀕する大手日本家電メーカーで、早期退職者や希望退職者の募集が始まった。だが大前研一氏は、この政策は社員を経営資源と見てない証拠だと言う。以下、氏の解説である。
* * *
いま日本企業は、電機業界を中心に業績改善を目指して早期退職者や希望退職者を募集している。
たとえば、すでに昨年4月から今年9月末までに約3万8000人を削減したパナソニックは、来年3月末までにさらに8000人程度を削減する見通しだという。また、シャープは子会社を含め11月に募集した希望退職者数が、目標の約1.5倍となる2960人に達したと発表した。実にバカげた話である。
おそらく、パナソニックやシャープには、ちゃんとした人事データベース(DB)がないのだろう。もし、それがあれば、すぐに経営陣や幹部を大幅に刷新し、次代を担う新しいリーダーのもとで人員削減だけにとどまらない根本的な経営改革戦略を打ち出すことができるはずだ。
ところが、パナソニックやシャープは、いきなり「○人の早期退職者を募集」とやった。これは“経営資源”として社員を見ていない証拠だといっていい。そんな制度では、優秀な社員から先に辞めていくだろうし、そうした経営陣に唯々諾々と従って居残ろうとする社員の中に、その会社が再生するために役に立つ人間がどれほどいるのか、甚だ疑問である。
社員の頭数で問題が解決できたのは、方向がわかっていた成長期の大量生産時代である。方向がわかっていれば、あとはスピードを加減するだけでよかったからである。その時代に人事DBがなかったのは驚くべきことではない、ともいえる。
しかし、今はそもそも、進むべき方向を見つけなければならない時代である。その模索と挑戦のための人材を育てているかどうかということが、日本企業に問われているのだ。単なる人員削減によるコストダウンで業績改善を図っても、それは材木にカンナをかけて削っているようなもので、身が細り、体力が弱まるだけである。
※週刊ポスト2012年12月21・28日号