『黒子のバスケ』(通称「黒バス」)イベントへの脅迫状が発端となり、ついに日本最大の同人誌即売会「コミックマーケット83」では、『黒子のバスケ』関連サークルの参加見合わせを決定するに至った。
同作は2009年から『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載中の人気マンガで、累計発行部数は1000万部を超える。脅迫事件の発端は、2012年10月。ネット掲示板に『黒子のバスケ』作者の藤巻忠俊氏に対する中傷が書き込まれ、氏の母校である上智大学に対し、脅迫文と薬物のようなものが送りつけられた。
その後も「黒子のバスケイベントを中止せよ」「腐女子が憎い」などの脅迫が続き、二次創作出版物即売会をはじめとする諸々のイベントが相次いで中止された。
こうしたイベントで販売されるのは、原作のパロディ作品の二次創作物である同人誌だ。犯人が“憎し”とする「腐女子」とは、たんなる女性オタクのことではない。2000年前後からネットを中心に男性キャラクター同士の恋愛を描いた作品を愛好する者が、「腐女子」と呼ばれるようになった。『黒子のバスケ』は昨今、この同人誌業界で爆発的なヒットを飛ばすジャンルとなり、市場の牽引役となっている。
「K-BOOKS」「まんだらけ」「メロンブックス」「アニメイト」など、こうした同人誌を発売する同人ショップは、1990年ごろから都内を中心に拡大しているが、そうした同人ショップにおける一番人気のジャンルは「やっぱり『黒子のバスケ』です」(店員)という。
同人業界での「黒バス」ブームを実感しているのは、なにも同人ショップだけではない。同人誌印刷を請け負う都内の印刷所では、「黒バス」のおかげで自社が潤っていると話す。
「『タイバニ』はもう終わりだね。全部『黒バス』にもっていかれてる。大手さんも『黒バス』に乗り換えている人が多いからね。中には4万部刷る人もいるんだから、すごいよ」(印刷所従業員)
「タイバニ」とは、昨年から女性向け同人誌でヒットしているジャンル『TIGER&BUNNY』のことだ。「黒バス」がヒットしてから、こちらが下火になるほどに作家の流出も起こっているという。とはいえ、「黒バス」が人気があるだけに脅迫事件の影響も大きい。前出・印刷所従業員が続ける。
「イベントが中止になると、その為に刷っている人達にとっては本当に大きな損害だと思うし、酷い話だよね。こっちもイベントに合わせて刷っているから、突然中止になるとね……」
原作市場だけでなく、二次創作市場も打撃を被っているようだ。