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「治療不可能」と言われた金子哲雄さんを担当した医師が述懐

 先日発表された、「2012ユーキャン新語・流行語大賞」。このトップ10に「終活」が選ばれ、故・金子哲雄さんが受賞者となった。「終活」とは、「人生の最期を自分の望むように自分で準備すること」だ。

 金子さんは2011年6月に肺カルチノイドと診断され、余命幾ばくもないと宣告された。それから2012年10月2日に亡くなるまでの約500日、金子さんは、残されることになる妻のことも考えながら、「人生の最期」をプロデュースし、遺産整理や納骨堂の手配、葬儀の仕切りまで、全部自分で行った。

 闘病、テレビやラジオの仕事、本の執筆、終活…その、見事な金子さんの500日を、傍らで見守っていた人たちがいた。

 その一人が、肺カルチノイドの治療にあたった、血管内治療のスペシャリスト、大阪・ゲートタワーIGTクリニックの堀信一院長だ。

 金子さんは最後の1か月で遺した著書『僕の死に方 エンディングダイアリー500日』(小社刊)に、堀先生との出会いをこう書いている。

〈堀先生の第一声を私は忘れない。「咳、おつらかったでしょう」 私の顔をじっと見て、患者の立場になって声をかけてくださったのだ。その瞬間、私は号泣していた〉(以下、〈〉内は同書より)

 金子さんの病状は、がん専門医が「治癒不可能」と匙を投げてしまうようなものであり、治癒率低下を嫌う大学病院や専門病院では、門前払いのような扱いをされたと感じていた。不安の中にある金子さんに対し、ほとんど顔を見ることもなく、うちの病院ではどうしようもないと言い渡す医師が多かった。

 そんななかで、唯一手を差し伸べたのが、堀さんだったのだ。堀さんは、カテーテル(管)を血管に通して腫瘍近くまで挿入し、患部への血流を遮断して腫瘍の成長を止める血管塞栓術や、患部にのみ抗がん剤を投与する血管内治療の日本における第一人者だ。

「外科治療、放射線治療、全身化学療法といったがん三大治療でうまくいかない人も、数多くいます。そんなかたがたが私たちの病院を最後の頼みの綱にしてくれているようです。金子さんは、腫瘍によって圧迫された気管がぺちゃんこになっていて、生きているのが不思議なくらいでした。『もう、これはやってみなきゃわからんな』と思いました」

 金子さんは、堀さんが自分を「モノ」でなく、「人間」として扱ってくれたと、著書の中で感謝している。

「患者をモノとして扱う──これはね、現代の医療制度の弊害なんですわ。初診の患者を30分親身になって診ようが、5分で片づけようが、(診療報酬の基となる)保険点数でいえば同じなんです。

 がん患者でも風邪の患者でも、初診料は同じです。病院経営としては、1人5分で、午前中だけで何十人というふうに多くの患者を診たほうがいいに決まってます。そうなると、患者の目を見て、きちんと話を聞いてあげることはできません。

 涙を流されたりしたら、時間がないのに対応しなければならないから、自分の首を締めないように事務的に言い渡す。システム上そうせざるを得ないんです。病院にとっての“優秀なドクター”は、患者をたくさんさばけるかどうか、なんです」(堀さん)

 患者は、医師の態度如何で、病状が悪化したり、回復したりするのだが…と堀さんはため息をつく。医師によっては、「あなたの病状は、いつ死んでもおかしくない」と平然と言ってのける人もいる。

「私は20代前半のころ、先輩から『患者さんを脅かすんやないぞ。脅かされて楽になる人なんて誰もおらん。“こんなひどい状況なんやからすぐ死んでもおかしないで”と言っておくのは、治療に失敗した場合に訴えられまいとする医者のアリバイ作りのためだけやで』って教え込まれていましたのでね。だから金子さんがいらしたときにも、『おつらかったでしょう』と声をかけたのだと思います」

※女性セブン2012年12月27日・2013年1月1日号

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