12月5日、急性呼吸窮迫症候群のため、都内の病院で亡くなった中村勘三郎さん(享年57)。食道がんを患っていることを発表したのは2012年6月18日だった。
日本最先端のがん治療で知られる病院に入院した勘三郎さんは、7月27日に手術を受ける。12時間にも及ぶ手術は無事成功し、翌日にはICU内を歩き回るほど経過は順調だった。当然、周囲からは“早期復帰”を期待する声があがった。しかし、事態は一転する。
「8月末に勘三郎さんは重い誤嚥性肺炎を患ってしまったんです」(梨園関係者)
食道がんの手術後、食事をうまくのみ込めず、それが食道から肺や気管支に逆流してしまうと誤嚥性肺炎が起こるケースが多いという。家族にしてみれば、食道がんの手術が成功したのに、なぜという思いだろう。まして、大病院に入院していながらのことだけに、ショックは大きかったに違いない。
勘三郎さんが入院していた病院は、がん治療が専門の病院だったこともあり、肺炎治療のため、急きょ転院することになった。移った病院は、歌舞伎関係者が多く利用している大学病院。しかし、ここでも病状は快方には向かわず、さらに重篤なARDSを発症してしまう。ARDSとは“急性呼吸窮迫症候群”の略称だが、一体どんな病気なのだろうか。
「肺炎の合併症や大きな手術をした後に発症することが多いんですが、その症状は、今までに体験したことのないような呼吸困難が起こり、体内に酸素が取り込めなくなって呼吸不全に陥るという病気です。ARDSになると、肺は24時間ほどで水浸しになります。そのため肺をレントゲンで撮影すると本来、黒いところが真っ白になるんです」(信州大学医学部付属病院 呼吸センター長・久保惠嗣氏)
このARDSを発症したことで、勘三郎さんの容体は、エクモと呼ばれる体外式膜型人工肺を使わなければ、体内に酸素を送れない、いつ心肺停止してもおかしくない重篤な状態に陥ってしまう。そこで9月に入ったころ、このエクモが常備されている別の大学病院に再度転院して、ICU(集中治療室)に入ることとなる。
「エクモは人工呼吸の最終手段です。ARDSの場合、より重症化すると肺が良くなる可能性が低い。そうなるとエクモを使っても延命するだけで、元の状態に治すのが難しいケースも多いですね」(前出・久保氏)
※女性セブン2012年12月27日・2013年1月1日号