眼の悩みを抱えていては、明るい世界も暗いものに見え、「人生の彩り」にも影響を与えかねない。「眼の老化は仕方がない」と諦めてしまうのはもったいない。シニアの心を曇らせる眼の障害とその最新治療法を紹介する。
今や国民病となった糖尿病は、患者やその疑いのある「予備軍」を含めると、全国で2210万人と推定されている(厚生労働省「2007年国民健康・栄養調査」)。
ところが、治療を受けている人は約6割にとどまる。せっかく健康診断で血糖値が高いことがわかっても、放置する人が相当数いる現状は、行政や眼科医の間では大きな問題となっている。
「自覚症状がないため、少しぐらい血糖値が高くてもといって油断して放置した結果、治療が後回しになり、失明してしまう人がいる。糖尿病が引き金となる網膜症がその原因です」
こう話すのは、井上賢治・井上眼科病院院長だ。糖尿病で怖いのは、体の様々な臓器に合併症が現われることだ。中でも神経や腎臓、眼は特に合併症が出やすい。
「糖尿病を放置すると、5~10年ほどで糖尿病網膜症になりやすく、それが視力低下や失明を引き起こします。糖尿病網膜症は中途失明原因の第2位で、特に、40~50歳以下の糖尿病の人は進行が速いので十分に注意が必要です」(井上氏)
糖尿病網膜症は高血糖が続くことにより、網膜の細い血管が傷んで、詰まったり破れたりする病気だ。カメラのフィルムにあたる網膜には、物を見るための神経細胞があり、無数の細い血管が網の目状に広がっている。そのため血管障害の影響を受けやすいのだ。
初期の段階(単純網膜症)では、自覚症状がほとんどなく、血糖値のコントロールをきちんと行なえば改善する。ただし、物を見る中心である網膜の黄斑部がダメージを受けると視力の低下を引き起こす。
進行すると、網膜の細い血管が詰まる(前増殖網膜症)が、それでも自覚症状はないことが多い。症状が現われるのは、さらに進行して新生血管と呼ばれる異常な血管ができる状態(増殖網膜症)になってからだ。
「新生血管が突然破れて硝子体の中に出血して、初めて受診する人もいます。黒い影や小さい虫が飛んでいるように見える飛蚊症になったり、眼の前に手をかざしてもわからないほどの著しい視力低下が起こったりもします。この段階になると、治療が難しく、手術をしても失明にいたることもあります」(井上氏)
※週刊ポスト2012年12月21・28日号