忘年会・新年会で賑わう夜の街でこの数年ブームとなってきたのが「ガールズバー」だ。男性客の心を掴み流行する背景には、日本の景況、経営サイドの計算、法令上のポイント、そして働く女性の心理など複数の要因が入り交じっていた。ブームの裏側を追う。
「そのスコッチ美味しいですよね。私も好きなんです。一杯もらってもいいですか?」
専門学校に通っているという20歳の女性バーテンダーが記者に声をかけてきた。20席弱の店内は20~40代のサラリーマンで賑わい、5人ほどの女性がカウンター越しに男性客と談笑している。“バーテンダー”と言ってもシェイカーを振るわけではない。簡単なカクテルや水割りを作るだけ。客に酒を振る舞ってもらい、一緒に杯を重ねて盛り上がる姿のほうが目立つ。
都内のある人気ガールズバー店内の様子だ。
近年こうした形態の店舗が夜の街で存在感を増してきた。ドリンクは1杯800円程度で、ショットバーと変わらない。一般的には1時間あたり1000~2000円程度のチャージがかかり、「2時間くらいで1万円以内の支払いが多い」(都内のガールズバー経営者)というから、キャバクラなどに比べれば圧倒的に安く済ませることができて、デフレ不況のなかで支持を広げてきた。料金が安いかわりに女性は隣に座らないし、基本的に指名もできない。
「キャバクラとガールズバーは、法令上の区分が明確に異なります。キャバクラは風営法による許可が必要ですが、ガールズバーはあくまで飲食店。深夜酒類提供飲食店としての届け出だけで開業できます。
両者を分けるのは『接待行為』を行なうかどうか。キャスト(女性店員)がお酒を作って出すだけなら『接客』ですが、隣に座ってお酌をするのは『接待行為』になるわけです」(ガールズバー経営に詳しい税理士・中島吉央氏)
風営法が適用されるキャバクラなどは深夜0時以降の営業はできないが、ガールズバーは朝まで店を開くことができる。
客の側からすると、この「接待行為をしない」という決まりが生み出す気軽さがブームのカギとなっているようだ。ガールズバーで働く女性キャストたちは次のように語る。
「キャバクラだと同伴やアフター、指名とかのノルマがあったりしますけど、ガールズバーにはなくて気楽です。カウンター越しなので酔ったお客さまに体を触られる心配もなくて安心なんです」(恵比寿のガールズバー「サプリ」で働く女性キャスト・20歳)
「昼間はエステの仕事をしていて小遣い稼ぎで始めたいと思いました。親に“ガールズバーでバイトしたいねん”って言ったら、父は“お前がやりたいんならええんちゃうか”としか言わなかったし、母も最初は反対したけどキャバクラとは違うって説明したらわかってくれました」(大阪・ミナミの「GARDEN」で働く女性キャスト・20歳)
男性が財布の中身を気にせず立ち寄れるだけでなく、女性も「気軽に居酒屋でバイトする感覚」で集まってくるのだ。業界関係者が解説する。
「不景気でキャバクラ嬢のノルマ達成はきつくなり、なかなか女の子が集まらなくなった。一方、ガールズバーの時給は1500円くらいが相場で、キャバクラよりは安いが居酒屋の倍近い額。楽に女の子が集まるんです。立地のいい店ならかなりの“買い手市場”になって、面接での採用率は1割程度。それだけかわいい子を店側が選べる」
※SAPIO2013年1月号