中国・韓国との関係が悪化する中で、成長著しい東南アジア諸国と信頼関係を築くことが日本にとっては重要となる。22年にわたってマレーシアの首相を務め、日本を手本とする「ルック・イースト政策」を掲げてきた哲人宰相・マハティール氏が、日本とアジアが共に栄えるための条件を語った。
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日本人は優秀で、しかも勤勉な国民である。東アジアのリーダーとして、地域を牽引してもらいたいと私は願っている。
そのためには、現在にも増して国を開かなければならない。米国社会の強みは、次々にやってくる移民に支えられている。英国にしろ、もはやインド系移民の存在抜きには経済は成り立たない。マレーシアもマレー系、中国系、インド系の国民を抱える多民族国家である。私たちが成長を遂げたのは、ビジネスに長けた中国系の存在が大きかった。
近い将来、すべての国々が程度の違いこそあれ「多民族国家」となることは間違いない。その昔、マレーシアと中国の間を旅しようとすれば、半年もの時間が必要だった。それが今では、わずか3時間で行き来できてしまう。人々がチャンスを求め、簡単に国境を越える時代となった。いかなる国も国境を閉ざすことはできないのだ。やがては日本も、移民の受け入れを選択する時が来るに違いない。
ルック・イースト政策の導入以降、約1万5000人の若者がマレーシアから日本へと渡って学んできた。だが、その数は欧州、米国、オーストラリアなどへの留学生よりもずっと少ない。日本の大学、そして企業にも、マレーシアの若者が研鑽を積める場をさらに提供してもらいたい。我々は、日本からもっと学びたいと考えているのだ。
一方、東アジアは今や世界の成長センターだ。マレーシアでもインフラの拡大が続き、多くの日本企業が参入を試みている。では、どうすればマレーシアは日本企業を受け入れるのか。
日本とマレーシアの間には長い友好の歴史があり、親日感情も強い。しかも、日本企業の技術力は折り紙つきだ。他国のライバル企業と比べて少しくらい価格が高くても、マレーシア側としては日本企業にプロジェクトを発注する用意はある。
ただし、韓国企業などと比べ、日本の会社は技術移転にやや消極的な傾向がある。我が国で仕事をするのであれば、日本人のエンジニアだけでプロジェクトを独占したりせず、マレーシア人にも技術を学ぶ機会を与えてもらいたい。
●取材・構成/出井康博(ジャーナリスト)
※SAPIO2013年1月号