チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世は11月に来日し、滞在先の沖縄や横浜で本誌との会見に応じた。対立の深まる日中関係についてダライ・ラマが提言する。
【インタビュー・構成/相馬勝(ジャーナリスト)】
――尖閣諸島をめぐって日中間の溝が深まっている。
ダライ・ラマ:尖閣諸島をめぐる経緯について私はよく知らないが、この問題は極めてデリケートで政治的だ。私はそれらの島々がどこにあるのか知らなかったし、名前さえ覚えていなかった。
私は横浜でも、記者会見でこの問題についてあなた(相馬)の質問に答えたが、その際、私が「センカク」と日本名で発音したため、中国外務省スポークスマンは「ダライ・ラマは日本寄りだ」と批判した。まったく誤りだ。
中国は本当に国粋主義的な教育をしている。自分たちの文化や国家だけが大事で最高だという極端な教育だ。中国における閉鎖的な社会と偏った情報が反日感情を植え付けている。私が欧州を訪問した際、フランスでも中国系住民による反日運動が起きていたが、人々に正しい情報が伝わっておらず、無知から運動に加担している。
仮に中国がより開かれた民主国家になれば、多くの問題は解決しやすくなる。中国では正しい情報が欠けており、日本が悪いとの思い込みがある。正しい情報こそが正しい判断をもたらす。中国指導部は現実を直視し、情報公開や法治の徹底を進めるべきだ。
――日本に何を期待するか。
ダライ・ラマ:振り返ると、20世紀は戦争や紛争によって世界中で2億人が死亡するという「流血の世紀」だった。その反省に立って、21世紀は「対話の世紀」「平和の世紀」にしなければならない。
ただし、平和は祈りによって実現されるものではなく、行動によってのみ成し遂げられる。21世紀をより良い時代にするため、非暴力の実践、対話による相互理解を進めて平和を築く努力が必要だ。日本の若者たちは考えに考え、動きに動くべきだ。
人間は動物と違って知性を持つゆえに、それぞれ違った考え方をしたり、違った目的のために行動したりする。だからこそ常に争いが生じやすいわけだが、違いを乗り越えて平和を実現するための手段を見つける知恵もまた必要だ。それは唯一、対話を通して見つけられるものだ。
平和は努力なしには達成されない。21世紀は、まだ12年しか経っていない。あと88年間残っている。若い世代は過去の歴史から学び、未来のために考えるべきだ。どうすれば幸福で平和な社会を実現できるか考えてもらいたい。考え、対話するには心が穏やかであることが必要だ。一時的な感情にとらわれ、怒りに駆られてはいけない。
私は科学者との対話によって、穏やかな心を得るには仏教的な瞑想が効果的であると知った。日本は世界有数の仏教国であり、勤勉な民族だ。若い日本人たちが平和な世界を実現する先頭に立ち、道筋をつけると期待している。
※SAPIO2013年1月号