おせち料理離れが言われたのは過去の話。実は若者はおせち料理好きという調査結果もあり、家族で楽しむお正月に欠かせないものとしてすべての世代に認識されている。
ところが、おせちをはじめとした伝統的なお祝いの席に欠かせない食材のひとつ「かまぼこ」の生産量は1970年代初頭をピークに減少するばかりだ。一世帯あたりの支出金額をみると、平成23年にはとうとう3000円を切ってしまい、20年前のほぼ半額まで落ち込んでいる(全国かまぼこ連合会しらべ)。
じりじり減り続けることへ危機感から、かまぼこ業界では様々な試みがなされている。新しい可能性を探して、10月末には原宿・表参道・青山を巡る、街を楽しむ「青参道アートフェア」のひとつとして、「かまぼ考」というプロジェクトがおこなわれた。23組のクリエイターとともにプロジェクトに参加したのは、2015年に創業150年をむかえるかまぼこの老舗、神奈川県の小田原鈴廣だ。
イベントでは、“かまぼこ”について、いくつもの新しい発見があったと小田原鈴廣お客様コミュニケーション課の小川典江さんは言う。
「デザイナーの皆さんは、かまぼこを食べる様子をまず想定して、そのシーンにあうならこんなかまぼこが存在するであろうとデザインを考えます。一方、製造する我々は、さきに商品を製造してから、お客様はどんな場所で食べてくださるのだろうとプロダクトアウトな発想になりがちでした。
また、かまぼこのことをご存じない方々からの斬新なデザイン案は、これまでの製造方法では無理難題も多く、そのおかげで職人が試行錯誤につとめ、新しい技法をうみだすこともできました」
かまぼこ不振の原因として、加工食品や大量生産に慣れきった日本人の舌の変化にも原因があるのではないかと言われている。特に板つきかまぼこでは、つなぎのでんぷんなどを使わず、魚肉と職人の技でつくりあげる本来のかまぼこが持つ魚本来の弾力が、若者を中心に敬遠されているのではないかというのだ。
その結果、小田原鈴廣のように、全国各地にある伝統の技によるかまぼこほど若い人の手が伸びないという。ところが、“かまぼ考”ではこういった観測を裏切る反応が相次いだ。
「会期中に開かれた“かまぼこナイト”というイベントには、日頃、かまぼこを召し上がっていない、表参道が似合う若い方ばかりが200人以上、会場に入りきれないほど来場されました。かまぼこ職人へ質問が集中し、天然食材でできていることに興味を持っていただけて、伝統的な製法でつくられた板かまぼこをおいしいと言っていただきました」(小川さん)
さかのぼると平安時代初期から宴会料理のひとつとして並んでいたという日本生まれの加工食品“かまぼこ”だが、決まり切った食べ方に固定されていることが、現在の消費の限界をつくってしまっていたようだ。では将来、どのような形で食べられる可能性が開けているのだろうか。
全国のかまぼこ消費は伸び悩みが続いているが、小田原鈴廣では高価格帯の販売が好調だという。職人10人が一日に最大500本しか作れない1本3500円の高級かまぼこが好調な売れ行きをみせ、年末の予約が増えたため増産して対応した。一年に一度だけ、年末に販売する2本組で18,000円の紅白かまぼこも限定セットを完売している。
これからは、日常を少し忘れる時間の持ち方として定着した“プチ贅沢”の品目に、かまぼこも加わっていきたいと小川さんは言う。
「世界の魚の消費がふえ、今後、魚の価格が下がることはありえないでしょう。つまり安いかまぼこを作れる時代はそう長くはないのではないかと思うのです。
“かまぼこ”を、お正月や家族が揃うときだけでなく、エビのように、少し贅沢な食材としてとらえてもらえるようにしていきたい。自分へのごほうびや、ちょっと贅沢な酒の肴など、そんなシーンでも食べていただけるようなものになっていってほしいです」
平成23年の水産白書によれば「先進国における健康志向や途上国における食生活水準の向上により、世界の水産物消費量は増加を続け」「世界の1人当たり年間水産物消費量は、この50年間で2倍に増加」したという。世界の人口は現在70億を超え、今後も増加する見込みであることを考えると、水産物の供給が不足する時代がやってくるのは間違いない。そうなると、水産加工品も今より少し、敷居が高いものになるのだろう。
お正月に限らず、お祝いしたいときや贅沢をしたいとき、ケーキや高級チョコレートを買うように、かまぼこを楽しむ日が来るかもしれない。