大手メーカーが苦しむなか、独自のアイデアを商品化し、ヒットを生み出している町工場も日本には存在する。
個人からアイデアを得て、オリジナル製品を開発し、ヒットさせた町工場は、プラスチックパーツメーカーのミツワ(東京都足立区)。同社は、大手家電メーカーの小物家電のプラスチック部品を作ってきたが、1997年から自社製品の開発にも力を入れるようになった。
そんな同社に大きな転機が訪れたのが2007年7月。あるデザイン事務所から、銀座で整体院を営む整体師が考えた美顔器の試作を頼まれたのだ。
同社の三輪隆一・代表取締役が振り返る。
「その時は試作品を渡して、うちの仕事は終わりました。しかし、私にはそのアイデアが非常に光って見えたので、1年後に整体師さんのもとを訪ねたところ、商品化するには大変なお金がかかるため断念したという。そこで、『お金は私が持ちますから、商品化させてほしい』とお願いし、整体師さんが考案者、私どもが発売元としてロイヤリティ契約を結びました」
そして契約から3か月後の2008年11月、整体師が実際に施術をする際の3本の指の大きさと配置を再現した3つの玉が付いているタマゴ型の美顔器「ユビタマゴ」が発売された。
「当初のデザインは取っ手の先に美顔器が付いているものでしたが、それだと力が伝わりにくく、金型代も高い。そこで、今のデザインを考えました。金型作成を含め、発売までの3か月間は試行錯誤の繰り返しでしたが、私たちはものづくり屋ですから、デザインを考えていた時が一番楽しかったですね」(三輪氏)
だが、発売後も苦労は続いた。営業の経験がなかったため、大手雑貨店を訪ねても門前払いが続く。それでも美容室やテレビショッピングで販売され始めると、一気に火が付いた。テレビ番組でも取り上げられ、2010年1月と2011年1月には楽天のフェイスマッサージ用品ランキングの1位を獲得した。今も10位以内に入るロングセラー商品となり、累計で14万個売れたという。
「大手からの受注生産は続けていますが、今やユビタマゴは当社の利益の半分を生み出している。これがなければ、うちは潰れていたかもしれない。今後も美容関連で良いアイデアがあれば、そのアイデアを買って、自社製品を作りたいと思っています」(三輪氏)
※週刊ポスト2013年1月18日号