プラチナバンドは、スマホの「つながりにくい」問題解決の特効薬にはならなかった。原因は不透明な電波の割り当て方式で成り立つ既得権にあると、通産省で渡辺喜美・行政改革担当大臣の補佐官を務めた政策コンサルティング、政策工房社長の原英史氏が解説する。
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新周波数帯を割り当てられても、実際にはすぐに使えず既存事業者との交渉が終わってから、というプラチナバンドのような事態が続く背景には、やはり役所の絡んだ既得権の存在がある。
非効率な割り当ての事例としてよく取り上げられるのが、財団法人移動無線センター(2012年4月から一般財団法人に移行)だ。この法人はタクシー無線など業務用無線の周波数をまとめて管理する団体で、従来からプラチナバンドの周波数帯を持っていた。
今般の周波数再編で同じ900メガヘルツ帯の中の別の帯域に移ることになり、先に触れた「立ち退き交渉」の対象のかなりの部分は、この法人の管理下で業務用無線を使っている事業者だ。
ただ、利用者数はわずか28万人で携帯電話の利用者数とは文字通りケタ違い。しかも業務用無線の果たしてきた役割の多くは、現在では携帯電話で代替することが可能だ。2011年の「提案型政策仕分け」でも指摘されたが、このセンターは天下り法人(仕分け時点では理事長、専務理事、常務理事のトップ3人が総務省OB)であり、そこに権益を与えてきた面があったのではないか。
たとえて言えば、都心の一等地に天下り法人が平屋を立てて低層利用し、高層ビルを建てて土地を何百倍にも有効利用できる民間業者が割を食っているようなものだ。
一応、総務省もオークション方式を未来永劫導入しないと言っているわけではない。
「周波数オークションに関する懇談会」報告書では、第4世代携帯からの導入方針を表明。2012年3月、オークション導入に向けての電波法改正案も提出した。
しかし、3.9世代の割り当ては先述の通りこれと切り離して比較審査方式で行なわれ、法案もその後成立に至る気配がない。理由は総務省が後ろ向きだからと言うしかない。総務省は「裁量権」を手放したくないのである。
現状の電波利用料も、総務省にとって都合がよい。総務省は電波を割り当てた事業者から年間718億円(2011年度)の電波利用料を得ているが、この収入は国民に広く還元されない。
特別会計ではないものの、電波法上、使用目的が制限され(103条の2第4項)、いわば総務省が“ヤミ特別会計”のように自らの財布として使えるようになっている。例えば、周波数変更に伴うアナ・アナ変換対策として、社団法人・電波産業会が1600億円を独占受注したが、これもまた天下り法人だ。
オークション導入はこうしたヤミ特別会計にも光を当てることになるのだが、遅々として進まない。
※SAPIO2013年1月号