「今回は2期はやるつもりだ」
安倍晋三首相は側近議員に長期政権への意欲をこのように漏らしている。自民党の総裁任期は3年、2期務めれば6年で小泉元首相の首相在任記録を抜く。そのうえ、憲法改正を実現すれば歴史に名を残すことができる。
しかし、実際に待ち受けているのは、参院選に惨敗して退陣に追い込まれた「6年前の悪夢」かもしれない。
この春、民主党政権が残した「時限爆弾」が安倍政権で炸裂するからだ。総選挙と政権交代の政治空白の中でほとんど注目されていない東京電力の再破綻問題である。
民主党政権は福島原発事故の後、経営破綻状態にある東電を5兆円の公的資金(交付国債)で実質国有化する仕組みをつくり、総額3兆4000億円を投入した。しかし、賠償や除染費用などがかさんで再び資金ショートが迫り、広瀬直己・社長が、「除染基準などが確定せず、必要な資金の見通しは青天井だ」と政府に追加支援を要請している。
同社の資料「再生への経営方針」によると、〈被害者への賠償と高線量地域の除染費用を合計すると、原子力損害賠償支援機構法の仕組みによる交付国債の発行額5兆円を突破する可能性がある。さらに、低線量地域も含めた除染、中間貯蔵費用などについて、同程度の規模の費用が、今後、追加で必要となるとの見方もある〉と、将来的に少なくとも5兆円の追加が必要と試算している。
経済ジャーナリストの町田徹氏の指摘だ。
「そもそも東電実質国有化の段階で資金ショートを起こすことは見えていた。安倍政権は民主党の責任だと批判するでしょうが、東電の法的処理には踏み切れないのではないか。結局、小出しの追加支援で問題を先送りするのが関の山でしょう」
しかも、東電は少しでも燃料コストを下げるために4月から新潟の柏崎刈羽原発7基すべてを順次再稼働させる計画だ。他の電力会社も、この7月には関西電力が高浜原発(福井)、九州電力は川内原発(鹿児島)の再稼働をめざしている。
安倍首相はそれを承知で「政府が責任をもって再稼働する」と公言し、原発新設も容認する姿勢をみせており、電気料金値上げの上に、再稼働のリスクと事故補償の巨額負担を迫られる国民の怒りに火がつくのは明らかだ。
※週刊ポスト2013年1月18日号