安倍晋三首相には“不吉”な仕事始めとなった。
米国が1月の安倍首相訪米の受け入れ延期を通告してきたからだ。表向きの理由はオバマ大統領の2期目の就任式(1月21日)や一般教書演説など新政権準備で日程が取れないというもので、官邸には外務省を通じて5日に連絡が入ったとされる。
「すっかり訪米するつもりになっていた総理は驚き、5日はまだ正月休み中にもかかわらず外務省の河相周夫・事務次官を官邸に呼びつけ、なんとしても日程調整をするように厳命した」(自民党幹部)
河相次官は7日朝、自らワシントンに飛んだ。外務省の事務方トップが省内の仕事始めと新任の岸田文雄・外相の歓迎会を欠席したことからも、安倍首相の動揺の大きさがわかる。
それもそのはずで、1月訪米は「日米安保重視」を掲げる安倍氏が強く望んだものだ。総選挙勝利2日後の昨年12月18日、安倍氏はオバマ大統領と電話で会談した後、自ら記者団に「日米同盟のより強化を図っていきたい。1月の時点でですね、日米の首脳会談ができるように調整したい」と表明した。
しかし、それは安倍首相のフライングだった。外務省中堅が舞台裏を明かす。
「安倍総理は政権交代前の12月はじめから、首相就任を前提に1月の日米首脳会談の日程を組むようにいってきた。実は、電話会談時点ではまだ日程は確定していなかった。河相次官ら上層部はオバマ大統領の日程が厳しいことから最初の外遊はアジア歴訪にしてはどうかと進言したが、総理は、『今回は米国だ』と耳を貸さなかった」
それほど熱烈なラブコールを、オバマ大統領はなぜ袖にしたのか。
オバマ政権ではクリントン国務長官やパネッタ国防長官の交代が決まっているが、新長官の就任には議会の承認が必要だ。外務省有力OBは「オバマ大統領は2期目の閣僚の陣容もアジア戦略も固まっていない段階で顔見せ程度の日米首脳会談に時間を取られたくないのは当然でしょう」と見ているが、それにしても、「日米同盟重視」とすり寄ってくる安倍首相に代わりの日程を約束しようとしないのは、突き放しているようにさえ見える。
知日派で知られる米国の外交シンクタンク「アジア太平洋安全保障センター」のジェフリー・ホーナン准教授の見方はこうだ。
「米国政府が心配しているのは、安倍氏が東アジアをめぐる米国外交の微妙なニュアンスを理解できずにいることだ。オバマ政権は米中関係の悪化はなんとしても避けたい。
しかし、安倍氏は先の総裁選で従軍慰安婦問題やその他の戦後処理に関する日本政府の歴史認識を見直したいと言い続けている。尖閣問題でも中国に強硬姿勢を取るかもしれない。米国にすれば、そんな安倍氏が『アメリカは日本の同盟国だから、当然、応援してくれるだろう』と日米同盟強化を強調する姿勢を評価していない」
オバマ政権は安倍首相を同盟相手として危惧しているという指摘である。
※週刊ポスト2013年1月25日号