コーヒーに“サードウェーブ(第3の波)”が到来。一方で、スターバックスなど、セルフ式カフェに押されていた旧来型フルサービスの喫茶店が復活。コーヒー店をめぐる環境変化が、新しい競争を生み出しつつある。
まず「第3の波」とは、米国初のコーヒー文化の新潮流のこと。カリフォルニアなど南海岸で興った流れを総称する呼び名で、2002年頃から使われるようになった。簡単にまとめると、豆の産地や農園を重視し、豆に合わせた焙煎をするなど、豆の個性を大切にした高品質なスペシャリティコーヒーを追求するのが特徴だ。「豆からカップまで」という標語が掲げられており、流通経路の透明性も大きなポイントとされている。
ではセカンドウェーブ(第2の波)、さらにはファーストウェーブ(第1の波)とはどのような潮流だったのだろうか? 簡単に振り返ろう。
■ファーストウェーブ:1970年頃までの大量生産・大量消費の時代。真空パックの開発により、焙煎したコーヒーの遠距離流通が可能になった。低価格第一で、経済効率のよい浅煎りが好まれた。
■セカンドウェーブ:ファーストウェーブへの反動から、“味”を求める動きが活発化。深煎りムーブメントが起きる。1971年にスターバックスが誕生。タリーズなど、シアトル系コーヒーチェーンが世界を席巻。
そして現在、日本にも定着しつつある第3の波は、第2の波で始まった味への追求を進化・深化させた動きといってよいだろう。昨年は、日本発のサードウェーブ系のコーヒー店が都心を中心に続々とオープン。たとえば東京・渋谷には「FILBERT STEPS」が新規開店、軽井沢の人気店「丸山珈琲」は世田谷に出店するなど、大規模チェーン店とは一線を画すオリジナルな店舗に客が集まっている。
だが、こうした新潮流が、スターバックスなど第2の波の流れをくむセルフ式チェーン店を脅かしているかといえば、今のところそうではないようだ。1000店舗越えが目前に迫るスターバックスは、昨年も好調を維持。今期の売上高営業利益率は約8%と、過去最高を見込む。とはいえスタバの敵は、第3の波だけではない。旧来型のフルサービスの喫茶店が復活を遂げつつあるからだ。
昨年、急成長を遂げた「コメダ珈琲店」。業界3位のタリーズコーヒーの店舗数を、今年度中に抜く勢いだ。昨年11月には銀座ルノアールがキーコーヒーとの資本・業務提携を発表、団塊の世代をターゲットにした「ミヤマ珈琲」を軸に全国展開へと打って出ると宣言した。ドトール・日レスホールディングスは昨年3月から、フルサービス式の新業態「星乃珈琲店」の展開を開始。これらはいずれも、時間と財布に余裕のあるシニア層を取り込み、フード類を充実させるなどして、客単価の底上げに成功している。
興味深いことに、米国の第3の波系のコーヒー店オーナーや焙煎業者たちのなかには、日本の喫茶文化に影響を受けた人がいるという。『フードスタジアム』編集長の佐藤こうぞう氏も、第3の波の広がりと、喫茶店復活の背景を分析するなかで、両者の親和性も指摘する。
「まず、第3の波の特徴である“豆へのこだわり”は、すべての農作物に共通する流れです。野菜も、生産者の顔が見える安心なものが選ばれるようになってきた。豆も、誰がどこで作ったものかが、問われるようになってきた。美味しいだけでは十分でない。高品質でオープンなものが求められる時代に、第3の波が受け入れられるのは自然なことです。
また、客は、コーヒーの味だけを求めているわけでない。丁寧なサービス、ゆったりとした空間など、チェーン店では味わえない、コーヒーにまつわる総体を楽しみたいという欲求も高まっています。最近増えているこだわりの店や喫茶店は、こうしたニーズを掬うことで、復活したと言えるでしょう」
だが、高品質化が進んでいるとはいえ、コーヒー単価は安い。だからこそ店舗の成功には、コーヒー以外がカギを握ると佐藤氏は指摘する。
「トーストやスイーツなど、その店の目玉商品を作ることで、客単価を上げることができる。それはオーナーのメッセージにもなり、他店との差別化にもつながる。コーヒー店ではありますが、サイドメニューの充実が重要になってくるはずです」
アルビン・トフラーは世界的ベストセラーとなった『第三の波』の中で、経済の動きを“波”としてとらえ、新しい潮流が古い文化や社会を押し流すと言った。いまだ堅調の第2の波系vs新顔の第3の波系vsよみがえった喫茶店――業界のパイ拡大を推し進めながらも3者入り乱れた戦いは激化し、日本のコーヒー文化は進化していきそうだ。