中国人民解放軍は数の上では自衛隊の10倍の兵力を有している。軍事費も前年比2桁増が20年以上続き、自衛隊の防衛費を大きく上回っている。しかし、いま中国軍と自衛隊が戦火を交えれば、中国軍に勝ち目はない。兵士の技量や練度が自衛隊員に遠く及ばないからだと語るのは元航空幕僚長の田母神俊雄氏だ。中国軍と自衛隊の違いを田母神氏が解説する。
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中国空軍は、自衛隊が30年前にしていた訓練を今やっている。「右へ行け」「上がれ」といった針路指示を地上から無線でパイロットに出しているのだ。
こういうアナログ型の訓練をしていて近代化された自衛隊に勝てるはずはない。電波妨害されると、無線はガーガーという雑音で聞き取れなくなってしまう。これでは戦闘にならない。当然ながら自衛隊はいざとなったら電波妨害する準備をしている。中国空軍のレベルはその程度なのである。
なぜこんなことが分かるかというと、自衛隊は偵察衛星の画像を見たり、偵察機、情報収集機を飛ばしたりして、常時、中国軍の動向をチェックしているからだ。機密事項なので詳しく言えないが、たとえば通常配置の戦闘機20機が、ある日どっと移動したとすると、「何かやろうとしているな」ということが分かる。電話や無線などの通信もモニターして、中国空軍がどんな訓練をしているのかもだいたい分かる。
他国の訓練方法を情報収集し、それを自分たちの訓練に反映させるのは、どの国もやっていることだ。航空自衛隊には全国から選抜された技量優秀な隊員が集まる飛行教導隊がある。彼らは他国の戦闘機がどういう戦法で攻めてくるのかを徹底的に研究し、訓練飛行では敵機の役割を演じる。第一線の若いパイロットを相手に空対空戦闘を行ない、「あの時、君の判断が誤っていたからやられたんだよ」などとアドバイスする。当然、中国の戦闘機の戦法についても十分研究・分析している。
このように技量・練度において航空自衛隊員は中国空軍兵士を圧倒的に上回る。人材育成にきちんとカネと時間をかけるという点は陸上自衛隊や海上自衛隊も同様だ。それでも自衛隊員たちは慢心することなく、さらなるレベルアップを目指して訓練に明け暮れている。実力差は開くことはあっても縮まりはしない。
※SAPIO2013年2月号