「飽食の国・ニッポン」などと言われているが、本当だろうか。さまざまなデータから浮かび上がってきた事実は違う。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。
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「飽食の国」であり「世界一食べ物を捨てている国」。よく聞くフレーズだし、日本人にとって、日本はそういう国だという思い込みがある。だがこれらのフレーズは間違っている。はっきり言ってウソである。
まず主要各国の1人1日あたりの供給カロリーを調べてみると、FAOSTAT(国連食糧農業機関)の算出では「肥満大国」と言われるアメリカが3688kcal。さらにイタリアやドイツ、フランスなども3500kcalを超えている。対して同じデータで見ると、日本人の供給カロリーは2723kcalに過ぎない。もちろん体型の違いから来る、一日に必要な摂取カロリーの差はあるにせよ、日本は適正な範囲にとどまっていると考えていいはずだ。
では体型の似たアジア圏ではどうか。お隣の韓国の供給カロリーは3200kcal、中国も2002年に日本を上回り、2008年には3000kcalを超えた。一方日本はというと、統計上供給カロリーが3000kcalを超えたことは一度もない。少なくとも、一定の経済レベルにある諸外国と比べて「飽食」だったことなどないのだ。
食料廃棄についても、同様の思い込みがある。日本の年間食料廃棄量は、約1900万トン。分別回収の実施状況にもよるため、他に食料廃棄量を算出している国は多くはないが、例えばアメリカでは、2004年にアリゾナ大学のティモシー・ジョーンズ教授が5380万トンという数字を発表している。また食料廃棄の削減に力を入れているというイギリスの人口は日本の約半分だが、同国の環境食料地域省の調べでは年間の食品廃棄量は1800万~2000万トンだという。
お隣、韓国の食品廃棄量は474万トン(韓国環境省・2005年)とされているが、現在韓国国内で問題となっている食品廃棄物排水の海洋投棄の120万トン(2012年)の扱いや、飲食店で無料提供されるおかずの使い回し問題など、各国ともそれぞれの事情を抱えている。
中国や韓国のように「食べきれないほどの料理でもてなす」ことが美徳とされる文化の国もあるが、人口が世界シェア20%の中国などは食料消費量のシェアも突出している。野菜で実に50%、豚肉で47.6%、水産物で34.5%、ほかの穀物やイモ類、鶏肉や果実などのシェアもだいたい20%前後となっている。食料廃棄量を調査したらどれほどの数字になるのだろうか。
「米1粒に7人の神様が宿る」という日本だからこそ、「もったいない」という概念は、喉に刺さった刺のように人の心に引っかかりやすい。もちろん、食べ物を粗末にしてはならない。しかし日本が「飽食の国」「世界一食べ物を捨てている国」というのは間違っている。日本を含めた各国の余剰食料を、そのまま途上国に送ることができるわけでもあるまい。
生活習慣病による医療費、自給率、TPPを含めた貿易摩擦など、食にまつわる問題は山積みだ。卑下するでもなく、他を責めるでもなく、自らのスタンスを明らかにするために、まずは多くの事実を知る。課題解決のために、必要不可欠な第一歩目である。