東日本大震災による東京電力・福島第一原子力発電所事故が起きてから2年近く過ぎているが、原発をめぐる論議は、曖昧模糊(あいまいもこ)として未だに定まらない。科学的な議論を経ずに、原発政策を決めるのではなく、正しいデータに基づく冷静な議論を行なうべきと大前研一氏が述べる。
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東日本大震災による東京電力・福島第一原子力発電所事故から2年近くが過ぎた。しかし、日本の原発政策は未だに足元がふらついて定まっていない。
原子力規制委員会(田中俊一委員長)は、日本原子力発電・敦賀原発、東北電力・東通原発、関西電力・大飯原発で活断層の調査を行ない、各原発の再稼働否定や停止を模索している。一方、安倍晋三首相は3年間で全原発の再稼働を判断するとしつつ、新増設を認める可能性に言及して「2030年代の原発稼働ゼロ」という政策を見直す考えを示している。
この、原発をめぐる曖昧模糊とした論議は、日本という国と日本人を知るうえで非常に重要な手がかりになる。
一つ目は“放射能恐怖症”だ。福島第一原発事故を受けて日本は全原発を止めた。しかし、未だかつて原発事故が起きた後、すべての原発を止めた国は、日本以外にない。広島・長崎の記憶が大きいのだろうが、1979年にスリーマイル島原発事故が起きたアメリカも、1986年にチェルノブイリ原発事故が起きた旧ソ連も、他の原発は止めていないのである。
また、福島第一原発事故の直後、政府は農産物から食品衛生法の暫定規制値を超える放射性物質が検出されたとして、福島、茨城、栃木、群馬の各県産ホウレンソウとカキナを出荷停止にした。しかし、暫定規制値は、ホウレンソウなどを水で洗わずに毎日、1年間食べ続けた時にその値になるという数字である。つまり「水で洗って食べれば問題ありません」といえばよかったのに、いきなり出荷停止にした結果、風評被害が一気に拡大してしまった。
このように科学的な議論をすっ飛ばして原発政策を決めているのは日本だけなのだ。正しいデータに基づいたもっと冷静な議論を、豊富な科学的知見を持つ世界中の学者を入れて行なうべきである。
※週刊ポスト2013年1月25日号