漫画家のさかもと未明さんが、飛行機の中で泣いていた赤ちゃんの泣き声がうるさいと、航空会社にクレームを入れたことが大きな話題となった。確かに、赤ちゃんの泣き声を不快に思うことは多いだろう。でも、いったいどうして不快に感じるのだろうか? 『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)でもお馴染みの脳科学者・澤口俊之氏が解説する。
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電車やバスなどの交通機関や、レストランなど公共の場で、赤ちゃんの泣き声が気になり、その声に不快感を抱いたことがある人も少なくないでしょう。実際、アメリカのある調査では、「不快な音」ベスト10の中に赤ちゃんの泣き声が入っています。
人間は、周波数域が2000~5000Hzの音にもっとも敏感で、特にこの音域内のノイズ(雑音)を不快に感じます。例えば、黒板を爪で引っかく音がその典型ですが、実は、赤ちゃんの泣き声にもこの周波数のノイズが含まれているため、不快に感じてしまうのです。
ちなみに、人が心地よく感じる音は2000Hzより低い周波数の低音で、例えば、川のせせらぎがその代表です。そして実は、赤ちゃんの“笑い声”はこの音域内なので、泣き声とは反対に心地よく感じます。赤ちゃんは、発する声ひとつとっても“天使”と“悪魔”というわけです。
人間がこうした快や不快を感じる脳領域は、側頭葉の内側にある扁桃体です。一方、音を処理しているのは側頭葉にある聴覚野です。ある音を不快と感じるかどうかは、扁桃体と聴覚野の相互作用に依存します。そしてどの程度不快と感じるかは、扁桃体の活動状態によります。
しかし、そこには個人差があるため、同じ音でも人によって感じ方に差が出るのです。同じ赤ちゃんの泣き声でも、扁桃体がその音に対してあまり活性化しない人には、さほど不快に感じられないし、扁桃体が大きく活性化する人にとっては、とても不快に感じられるというわけです。
赤ちゃんが泣く頻度は生後6~8週でピークを迎え、3~4か月くらいでかなり落ち着きます。ピーク時には、1日あたり2.6時間も泣くというデータがあります。
赤ちゃんは言葉を使うこともできないし、歩くこともできません。自分の状態を泣くことで示します。
それは大きく分けると、怒り・恐れ・痛みの3つです。周りの大人は、赤ちゃんの泣き声や表情から、これら3つの状態を区別します。赤ちゃんの泣き声に対する成人の反応を調べた研究では、赤ちゃんの「痛み」による泣き声に、大人はもっとも強く反応することがわかっています。
赤ちゃんは自分の状態を泣くことでしか伝えられませんが、同時に表情、特に「目」によって自分がどのようにつらいかを表現しています。多くの場合、怒りや恐れのために泣いているときには目を開けています。一方、痛みで泣いている場合は目を閉じています。つまり赤ちゃんは、泣いて自分に注意を向けさせ、目で状態を伝えているのです。
※女性セブン2013年2月7日号