視聴率3位と低迷期からなかなか抜け出せないフジテレビだが、同局の将来は「2人の名物プロデューサー」の双肩にかかっている――と期待を込めるフジ関係者は少なくない。
フジの持ち株会社「フジ・メディア・ホールディングス」がグループ内にVC(ベンチャーキャピタル)を設立した。今後、SNS(交流サイト)やEC(電子商取引)企業への投資を加速させるという。放送業界によるインターネットの積極活用は今さら珍しくもないが、VCの社長に就いたのが亀山千広常務だったことで、業界内の注目度は俄然高まった。
亀山氏といえば、自らプロデュースした『あすなろ白書』や『ロングバケーション』、そして『踊る大捜査線』といったドラマでことごとく高視聴率を叩き出し、2003年には新設の映画事業局局長に栄転。近年は『海猿』や『テルマエ・ロマエ』の映画を手掛けて、1本70~80億円と記録的な興行収入を上げたヒットメーカーだ。
そんな局にとって貴重な“稼ぎ頭”が、なぜ畑違いの新規事業を託されたのか。
「『海猿』は原作者とケンカして終わり、『踊る~』は現場の軋轢によってファイナルを迎え、シリーズ映画で亀山氏の活躍する土壌がどんどん狭まってきている。そこで“世界の亀山モデル”と揶揄された、CMを大量投下してヒット作を生み出す彼の広告手腕を生かして、ネットの新しいビジネスモデルを築いてほしいというのが社長の意向でしょう」(フジ社員)
だが、これまでフジはまったくネット事業に無関心だったわけではなく、むしろ積極的にネットとの親和性を高めてきた。
番組に対するツイートが投稿できる自社SNSサイトの「イマつぶ」は、会員登録数が100万人を突破。他社との連携では、グーグルと組んでユーチューブで番組配信をしたり、グリーと業務提携して番組連動のソーシャルゲーム開発をしたりと、収益拡大の布石は着々と打っている。
放送評論家の金沢誠氏も、フジの改革意欲を評価する。
「視聴率低迷で100億~150億円の広告収入減になったとの噂もある中、フジはもはや地上波だけでは生き残れません。そこで、放送外収入の食いぶちとして、有望市場のソーシャルゲームや携帯アプリの開発に種を蒔いてきた意義は大きいといえます」
ネットやスマホ活用による収入源の多様化というわけだ。実はこれら新規事業に深く関わってきたのは、もう一人の名物プロデューサー、大多亮常務である。ご存じ『東京ラブストーリー』や『101回目のプロポーズ』で一世を風靡したトレンディードラマの生みの親である。
大多氏は2009年6月からデジタルコンテンツ局長として400人以上に膨れ上がった大所帯を指揮してきた。「とにかく面白いことをやり続ける」との信念を曲げずに、粘り強く広告主とも向き合ってきたという。
昨年から大多氏は編成制作担当の常務として、ドラマ制作現場に戻っているため、新規事業の成果は亀山氏が見届けることになるのかもしれない。しかし、奇しくもフジテレビの黄金期を築き上げた2人のプロデューサーの因縁は、今後もついて回る。
「フジテレビの豊田皓社長はホールディングスの社長も兼務していることに加え、今年は3期6年の改選期にあたります。次期社長レースのダークホース的な存在として大多・亀山の名が挙がったこともあり、2人がいずれフジ全体を統括する存在になることは間違いありません」(前出・金沢氏)
「楽しくなければテレビじゃない」とのキャッチフレーズが躍ったのは1980年代。フジテレビは大物2人の辣腕ぶりで、あのころの輝きを取り戻すことができるか。