安倍新政権が発足して1か月が経った。経済政策としてもてはやされ、株価上昇や円安をもたらしたアベノミクスについて、大前研一氏はどのように評価するのか。以下、同氏の論評だ。
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新政権が議会やマスコミとの関係で大目に見られる「ハネムーン期間」は発足後100日間とされていた。しかし、それは今や世界中どこでも30日になっている。つまり、昨年末に就任した安倍晋三首相の場合、この原稿が出る頃にはハネムーンが終了し、財政出動と大胆な金融緩和と成長戦略を“3本の矢”とする安倍政権の経済政策「アベノミクス」が馬脚を露わしているかもしれない。
そもそもアベノミクスが市場に歓迎されて株価が大きく上昇し、円安が進んだといわれているが、株価上昇も円安も、それ自体は景気拡大を意味していない。円安は輸出型企業にはプラスだが、資源や原材料を輸入している輸入型企業や内需型企業にはマイナスになり、一般庶民にとってもガソリン、電気料金、食料品、海外旅行などの値上がりにつながるからデメリットのほうが多い。
日本は世界でも珍しく輸出と輸入がほぼ同額の「為替中立」を達成している国なので、経済全体としては円高になっても円安になっても、おおむねプラスマイナスゼロである。
また、株価は企業の将来価値を表わすものなので、経済そのものを反映しているわけではないし、今期の上場企業の業績見通しは軒並み前期より悪化している。要は、輸出企業が多い経団連、保有している株の値段が上がらないと困るメガバンク、為替や株価を経済と勘違いしている無知なマスコミが集中している「大手町」と証券界がアベノミクスに浮かれ、囃し立てているだけなのだ。
※週刊ポスト2013年2月8日号