株価上昇と円安をもたらしたとされる“アベノミクス”は、メディアなどから称賛されているほどのものではないという大前研一氏。その陣容は、自民党が過去に失敗したことの繰り返しになっていると指摘する。
* * *
アベノミクスで不可解なのは、安倍首相のアドバイザーに、かつての自民党政権時代と同じ顔ぶればかりが並んでいることだ。
たとえば、内閣官房参与(経済担当)には小泉内閣で内閣府のシンクタンク「経済社会総合研究所」の所長を務めた浜田宏一・米エール大学名誉教授、日本経済再生本部に置く「産業競争力会議」のメンバーにはやはり小泉内閣で複数の大臣を務めた竹中平蔵・慶応義塾大学教授、「経済財政諮問会議」の議員には小渕内閣の「経済戦略会議」と森内閣の「IT戦略会議」で委員を務めた伊藤元重・東京大学大学院教授が名を連ねている。
だが、日本経済はバブル崩壊から20年以上も低迷し、その85%の期間は自民党政権だったのだから、この人たちに日本経済を再生できるアイデアがないことは、すでに明白だ。
しかも、安倍首相は中長期的な経済財政運営の基本方針となる「骨太の方針」を今年半ばまでに策定するよう経済財政諮問会議に指示した。しかし、骨太の方針という名称自体、小泉首相が当時の経済財政諮問会議にまとめさせた政策と一緒である。せめて名称くらい新しくすればよいのに、と思うが、とどのつまり、自民党は過去の失政を全く反省していないのである。
だから年明けに政府が閣議決定した事業総額20兆円の緊急経済対策は、基本的に昔と同じ公共事業頼みのバラ撒きで、景気浮揚効果はほとんど期待できない。自民党が重点政策の1つに掲げている、災害に強い国土づくりを目指し、10年間で総額200兆円をインフラ整備などに集中投資するという計画「国土強靭化」も、経済効果は見込めない。
なぜなら、トンネルがないところにトンネルを掘ったり、橋がないところに橋を架けたりすれば経済効果はあるかもしれないが、老朽化した既存のトンネルや橋を修繕・補強しても経済効果はゼロだからである。
※週刊ポスト2013年2月8日号