安倍晋三首相が打ち出した経済政策、アベノミクスを好感して日本株は急回復している。しかし国内投資家はいまだ売り越し状態で、その恩恵の多くを受けたのは外国人投資家だという現実がある。彼らが狙ったのはデフレ・円安で過小評価されていた家電、自動車、公共事業バラマキが期待できる建設、セメント、重機、エネルギー関連など大型株だ。
何も日本市場で外国人投資家が儲けてはいけないわけではない。むしろ、経済や金融マーケットが活発化する原動力となり、その結果、一般の日本人の生活が豊かになるならば喜ばしいことだ。
過去20年間、日本経済を苦しめた「デフレ・円高・株安」の三重苦を克服して、「インフレ・円安・株高」経済に転換するというのがアベノミクスの目的だ。GDPがプラスに転じるので税収が増える。
そうすると、インフレで借金の価値が減るのと合わせて、国家財政も再建できる。輸出企業を中心に業績が上がれば、サラリーマンの給料も増えて消費が活発になり、他の企業の収益も増える――という良い事ずくめのスパイラルが起こるという理屈だ。
だが、事はそう単純ではない。インフレ・円安・株高が実現したとしても、庶民生活は以前よりもさらに苦しくなることが予測される。エコノミストの浜矩子・同志社大学大学院ビジネス研究科教授が指摘する。
「外国人投資家や一部の日本人の富裕層が安倍首相のアナウンスをきっかけにして儲けようとしているから円安や株高が進んでいるだけで、それをもって政策が正しいとはいえない。
投資資金を持たないサラリーマンや非正規雇用者にとってみれば何のメリットもない。また、輸出企業の業績が上がっても、雇用が増える、賃金が上がるということに直接結びつくかどうかもわからない。むしろ、円安を進めていくと、資源や材料などの企業の輸入コストが上がり、そのなかで価格競争力を維持しようとすれば労働者の賃金が下がることにもなりかねない」
※週刊ポスト2013年2月8日号