所得格差は、より残酷な「セックス格差」を生む。労働市場の不公正が改善されないまま性の市場だけが完全な自由競争となり、若者の間では「3ケタ男」「4ケタ男」などという呼称が飛び交う一方、「生涯童貞」が増えていると、経済アナリストの森永卓郎氏が警鐘を鳴らす。
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終身雇用制のもと働くことができた男性は、モテなくても経済的な安定があったため、結婚を前提とすれば最低でも1人の女性とはセックスができた。ところが、非正規雇用の若者が増えたいまでは、結婚できない若い男性が増え、上の世代とのセックス格差が生まれた。
そして、同世代間の格差もどんどん広がっている。「性の配給制度」がなくなり、若い男性にとって性は完全な自由市場、弱肉強食マーケットになった。
すると、お金があり、ルックスもいいごく一部の男性が多数の女性とセックスできるようになり、何百人、あるいは1000人以上の相手と交渉を持ったという意味の「3ケタ男」「4ケタ男」といった言葉までまことしやかに語られる一方、一人の女性にもありつけないセックス弱者が増えた。セックスブルジョワジーとセックスプロレタリアートへの2極分化だ。
しかも今の若者は、モテなくてもあまり風俗に行かないし、行けない。先輩が後輩を風俗に連れていくなどという話はほとんどなくなり、非正規雇用だとそもそも金銭的余裕もない。そのため童貞率は上昇傾向にあり、20~24歳の未婚男性では40.5%、25~29歳では25.1%、30~34歳ではさらに増えて26.1%にも上る(国立社会保障・人口問題研究所『結婚と出産に関する全国調査』2010年)。
彼らは性欲がないのではなく、アニメや恋愛シミュレーションゲームなどのキャラクターを使って自慰をしている人が少なくない。そして、一度「解脱」(ヴァーチャルな世界である「2次元の世界」に完全にハマってしまうこと)すると二度と抜け出せないという。「2次元の世界」は、生身の女性のようにわがままを言ったり自分を裏切ったりせず、心地いいからだ。
去年、ダッチワイフメーカーのオリエント工業から「リアルラブドール」というシリーズが発売された。1mほど離れて見ると、本物の女性と区別がつかないくらいリアルにできている。「2次元の世界」が現実の「3次元」に進化しつつあることを象徴する商品だ。今はまだ70万円近くと高額だが、将来、価格が下がって一般の若者が手に入れるようになったら、ますます「解脱」して生涯童貞で過ごす人は増えるに違いない。
※SAPIO2013年2月号