例えば上海の街並みを見る限り、中国の近代化を疑う人はいないだろう。だが、その最前線を詳らかにしてみると、問題はくっきり浮かび上がってくる。中国の情勢に詳しいジャーナリスト・富坂聰氏がレポートする。
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春節の近づいた中国では、この時期特有のニュースがあふれる。
多くは密造酒や違法花火の販売や帰省列車の混雑などだが、そうしたニュースに混じって今年も各地でちらはらと見かけるのが、農民工(出稼ぎ労働者)たちの賃金未払い問題である。
業績の悪い企業が、労働者を使うだけ使って未払い賃金を残したまま計画倒産して夜逃げしてしまう、という事件が各地で相次ぐからである。
1月22日には真っ昼間にもかかわらず、杭州市の地下鉄1号線が2人の農民工によって約20分間にわたって止められて大きな騒ぎとなった。
一人の農民工は電車が侵入してきたのを見て線路内に飛び降り、そのまま座り込んでしまった。地下鉄「喬司」駅でのことだ。
そしてもう一人は、高架橋の防音壁に上って未払い問題を大声で訴えたのだが、途中でわきを走る高圧線に触れてしまい感電。線路側に落下して怪我を負った。
こうした事件は2007年の広東省で大きな問題となって以降、沿海部を中心にじわじわと広がったものだが、とくにこの二、三年は春節前のニュースとして定着してしまったようでもある。
景気の減速が明らかになりつつある中国でも、投資はいまだ積極的に行われている。その最も重点的な対象が鉄道方面であることは誰も知るところだ。その鉄道関連の事業でこうした未払いの企業が問題を起こすのは、いよいよ中国の景気後退のレベルが深刻化していることの意味なのだろうか。