伊藤園といえば、『お~いお茶』のヒット商品に代表されるように、日本茶飲料メーカーの“保守本流”というイメージ。だが、最近はフレーバーティーが市場にじわじわ浸透し、『TEAS’ TEA TEA NEW YORK』で新たな領域を切り拓いているという。作家の山下柚実氏が、順調に売り上げを伸ばす紅茶商品の開発ストーリーに迫った。
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あまり知られていないが、実は日本で「フレーバーティー」を発売する何年も前に、伊藤園はアメリカで展開を始めていた。
「ニューヨークならではの成熟した文化の中で、香りを楽しむお茶の提案をしてきました」と同社の商品企画本部・黒岡雅康氏(34)は言う。
ニューヨークで人気を集めた伊藤園のフレーバーティーは実にユニーク。緑茶にローズやレモングラス、ハーブの香りを加えて新しいお茶の可能性を提案して好評を得た。でも、北米で成功したからといって、同じ商品をそのまま日本へ逆輸入したわけではないらしい。
「アメリカでのフレーバーティーの経験やレシピのノウハウを活かしつつ、日本人が好む紅茶ベースのフレーバーティーを開発することになりました。数十種類の茶葉と香りを、いかに組み合わせれば喜んでもらえるのか。試行錯誤を繰り返したんです」(黒岡氏)
コンセプトは「紅茶の新しいおいしさを提案する」こと。
「日本では、シズル感がポイントになります」と指摘するのは同社広告宣伝部の佐藤元亮氏(37)。
シズル感。広告業界で使われる用語だ。その語源は、肉を焼く時のジュージューという音を表わす英語「sizzle」。転じて「感覚をいきいきと刺激する表現」のことをいう。瑞々しさ、したたる感じ。
「見るからにおいしそう、という感覚への刺激が日本では大事になります」(佐藤氏)
主力商品の「ベルガモット&オレンジティー」のパッケージには、大きな輪切りのオレンジの写真がついている。今にも果汁がしたたり落ちてきそうな……。
「日本で馴染みの果物と言えばまず、みかんですよね。果実の香りならきっと、消費者の感覚に訴えかけるに違いないと考えました」(黒岡氏)
フルーツの香りを楽しむ紅茶。その飲み心地は……オレンジが甘さを表現し、さらにベルガモットの酸味がすっと爽快な後味を演出している。
「甘さとともに爽快さ、キレ味がテーマです。世の中に甘い紅茶飲料ばかりが目立つので、我々は味と香りの複雑なハーモニーを追求しました。いわば、大人の紅茶です」
同社の手にかかると、アップルティーも個性的になる。黒岡氏が続ける。
「通常の赤リンゴだけでなく、青リンゴを組み合わせることで、酸味やキレ味、風味のメリハリを出しました」
一方、紅茶の苦み成分であるカフェインを、独自技術を駆使して90%カットすることにも成功した。
「フルーツの香りや酸味は、どうしてもカフェインの苦み成分とぶつかってしまうのです。そこで、紅茶らしさを残しつつカフェインを大幅にカットし、瑞々しい香りを保ちました。他社にはできない技術です」(黒岡氏)
2009年に発売を開始した『TEAS’ TEA NEW YORK』は順調に売り上げを伸ばし、2012年は1億8000万本(1月~11月)に達した。フレーバーティーの市場そのものも発売時と比べて2倍に拡大し、新しい顧客を創出している。
たとえば「男性」だ。男性は紅茶よりコーヒーを好み、甘さがあるフレーバーティーは好まないというイメージがあるが、そうではない。
「若い男性は以前ほどお酒を飲まない分、甘いものを欲している。あるいは禁煙した人が手持ち無沙汰さを埋める気分転換グッズとして、またリラックスできる商品としてもフレーバーティーが選ばれているようです」(黒岡氏)
※SAPIO2013年2月号