安倍内閣の危機管理能力が問われたアルジェリア人質事件は、邦人の安否確認情報が混乱、英米仏より多い邦人10人死亡という悲惨な結末となった。このアルジェリア人質事件で、なぜかこれまで説明されていない謎がある。
菅義偉・官房長官は会見で第一報を得たのは事件発生から2時間40分後の「1月16日16時40分」と発表したが、その情報をどこから入手したかである。
過去の海外での邦人襲撃事件を見ると、2003年にイラクで起きた奥克彦外交官銃撃事件では、政府は「第一報は米軍から」と説明し、2004年のイラク日本人人質事件は、「アルジャジーラから事前に情報提供があった」、さらに同年10月のイラク日本人青年殺害事件は、「米軍から現地の日本大使館に連絡」と情報入手経路が明らかにされている。
ところが、今回の事件では、外務省は本誌の取材に、「事案の性質上、情報入手の経路は一切答えられない」(報道課)と頑なに公表を拒んでいるのである。
本来なら、邦人保護の役割を担う現地の日本大使館から外務省に伝えられるべき情報だが、そうであれば隠す必要がないはずだ。実は、第一報は現地大使館からではなかったという情報がある。外務省関係者の話は耳を疑う内容である。
「在日英国大使館の職員から、外務省欧州局の職員に、『もう知っているとは思うが、大変なことになったね』という非公式の電話が入った。それで、外務省は大慌てで情報収集に走った」
外務省の情報収集能力の低さは今に始まったことではない。が、たとえそれが英国大使館からの情報であっても、事件から2時間半後の把握は遅すぎるとまではいえない。なぜ、明らかにできないのか。
【エリア内にいた英国人の多くは助かっていた】
今回の事件は英国企業のプラントが舞台となったが、犠牲者は英国人が3人なのに対し、日本人は10人が死亡した。現地の邦人保護体制や危機管理を検証する上で第一報の入手経路は極めて重要な情報になる。
英国の危機管理セキュリティ会社G4S社の日本法人元取締役で、中東・アフリカのテロ・治安情報に詳しい国際ジャーナリスト・菅原出氏が指摘する。
「石油大手のBPは専門のセキュリティ会社と契約し、プラント施設のセキュリティ・マネージャーが現地の英国大使館の治安担当者と密に連絡をとりながらテロ情報を交換する仕組みができています。
何かあれば、大使館の治安担当者が支援にも行く。だから現地の英国大使館には施設のセキュリティ・マネージャーから襲撃の情報が素早く伝わり、エリア内で英国人がどういう状況に置かれ、どこに避難するといった対応についても情報があったはずです。実際にエリア内にいた英国人の多くは助かっている。
日揮も専門のセキュリティ会社と契約していたはずですが、日本大使館にはセキュリティ・マネージャーを支援したり、日頃から情報を交換し合うシステムがない。事件が起きてから邦人保護担当の領事などが在留邦人リストをたぐって電話をいれ、安否確認するやり方なので、正確な安否情報はつかめないでしょう。日本人に多くの犠牲者が出た真相の解明は検証が必要だが、第一報がどんな経路で日本政府や現地大使館にもたらされたかは、邦人保護体制を点検する重要な鍵になります」
※週刊ポスト2013年2月15・22日号