日本人はつとにお茶好きとして知られる。2011年に総務省が行った統計では、1世帯あたりの「茶類」(ブレンド茶含む)への年間支出額は1万2487円にのぼる。
近年、お茶市場を牽引しているのは、キャップを開けて飲むだけのペットボトル飲料だ。中でも、2012年の日本茶の年間販売は3億1400万ケースに達する見込み(飲料総研調べ)で、震災後に備蓄需要が一気に伸びたミネラルウォーターの2億1100万ケースよりも多く飲まれている。
「今年は人気ブランドの勢力図がどう変わるか注目しています」と話すのは、業界誌『飲料ビジネス』編集長の宮下和浩氏。まずは、主な日本茶ブランドの歴史と現状分析をしてもらった(販売数量はいずれも2012年見込み)。
■1位 お~いお茶(伊藤園)8450万ケース
1985年に緑茶の商品化を成し遂げたパイオニア。1992年に1000万ケースを突破して以降、不動のトップブランドに。ブレンド茶ブームにも流されず消費者の信頼を得る
■2位 伊右衛門(サントリー食品インターナショナル)4850万ケース
2004年発売。日本茶製造販売の老舗「福寿園」(京都府)とタイアップしたことや異形ボトルが話題を呼び、初年度3000万ケース突破。麦茶やエスプレッソなど派生商品も人気
■3位 綾鷹(日本コカ・コーラ)3850万ケース
同社は「清流茶房」「なごみ」「まろ茶」「一(はじめ)」など日本茶ブランドを変更しながら2010年「綾鷹」1本にシフト。“急須でいれた味”にこだわりシェア急伸中
■4位 生茶(キリンビバレッジ)1860万ケース
2000年発売。「お~いお茶」の独占市場に風穴を開けたが、「伊右衛門」はじめ後発ブランドに抜かれ、2006年以降はシェア急降下。今年3月のリニューアルで再起をかける
特に宮下氏が着目するのは、「伊右衛門」と「綾鷹」の熾烈な2位争い、そしてキーワードは“にごり”にあるという。
「『綾鷹』が伸び続けているのは、抹茶を加えることによる<にごり>や<コク>を徹底的に追求して差別化を図っていること。これまでペットボトルの下に茶成分が沈殿する商品は敬遠される傾向にありました。でも、コカ社はお茶の専門家の意見を取り入れた広告宣伝やキャンペーンなどを続け、マイナス面をプラスに変えました」(宮下氏)
対する「伊右衛門」も、昨年10月にリニューアルした<石臼挽き抹茶>で販売数量は対前年比25パーセント増と好調に推移。そのため、今年3月には抹茶のコクや深みを生かした「伊右衛門 贅沢冷茶」を発売して2位の座を堅持したい構えだ。
しかし、本格志向の緑茶ブームにのって、今後も市場は拡大するのかといえば、それほど楽観視もできない。
「各社とも2013年は緑茶の販売数量増を見込み、増産体制を敷くメーカーもありますが、全体の市場はすでに頭打ちです。しかも、『爽健美茶』や『太陽のマテ茶』(いずれも日本コカ・コーラ)、『十六茶』(アサヒ飲料)といったブレンド茶の反撃に遭えば、日本茶として生き残れるのは上位3ブランドまでがいいところでしょう」(宮下氏)
各社の激しいつばぜり合いの行方次第では、王者の「お~いお茶」もウカウカしていられないはず。
「伊藤園は下位メーカーの派手な開発競争や広告宣伝を静観しながら、にごり茶が主流になれば“後だしジャンケン”で新戦略を練ればいいだけ。それがトップブランドの定石といえますが、『お~いお茶』も2007年以降は横ばいの販売数量が続いています。優勝劣敗の業界ゆえに、『伊右衛門』や『綾鷹』の追い上げは脅威に感じているはずです」(宮下氏)
急須を知らない若年層が増える中、今後、伝統的な日本茶の味がどこまで拡がるのか。あるいは、まったく新しいブレンド茶の味が受け入れられていくのか。いずれにせよ、日本人のお茶に対するこだわりは、尽きることがない。