この4月から施行される65歳定年制(雇用延長義務づけ)導入で企業の賃金体系見直しが進んでいる。三菱電機などが採用する「定年年齢選択型給料」では、55歳時に、給料は現状維持のまま60歳で退職するか、それとも給料ダウンで65歳まで働くかを選択するというものだ。
だが、切実な人生の選択を迫られるのは50歳代の中高年サラリーマンだけではない。
今回の改正高年齢者雇用安定法は、この4月から企業に、希望する社員全員の65歳までの雇用延長を義務づけた。現在、60歳から支給されているサラリーマンの部分年金(40年勤務の標準モデルで月額約10万円)が段階的に65歳支給に引き上げられ、60歳で定年退職すると給料も年金もない「年金空白」の期間が生じるからだ。
NTTグループや三菱電機は「年金空白」による収入減を補うために4月から60歳以上の雇用延長社員の給料を引き上げる方針を出し、他の大手企業も続く構えをみせている。
だが、同法に詳しい社会保険労務士の佐藤広一氏は、しわ寄せを最も受けるのは若い世代のサラリーマンだと指摘する。
「この法律改正によって、企業側は雇用を延長した社員を容易にクビにはできなくなる。企業はそのかわりとして、増加する人件費を抑制するために、年齢が上がれば給料が上昇する年功序列型の賃金体系を抜本的に見直し、若いうちから給料水準を抑制する動きが始まっています」
そのさきがけと見られているのが、NTTグループ8社が、10月からの導入を決めた、「フラット型」とも呼べる新たな賃金体系だ。
同グループの現在の賃金体系は、入社から50歳まで給料が上昇し、その後は雇用選択制になる。それに対して、新賃金体系は、30歳代から給料上昇が抑制され、41歳以降は60歳まで横ばいになる。そのかわりに、雇用延長される60歳以降の年間給料を現在の約200万円から300万円(最高400万円)まで引き上げるという内容だ。
東日本NTT関連合同労働組合の試算では、30~40代は年間ざっと100万円の減収、トータルでは1500万円の賃金が減らされ、それが60歳以降の賃金の財源に充てられる。東日本NTT関連合同労働組合(第2組合)の斎藤隆靖・幹事は「企業側は再雇用義務化で人件費を増やさないですむことになります」という。
従来の雇用選択制度との決定的な違いは、「50歳の選択」なら60歳定年を選ぶことで生涯賃金を満額受け取ることができたが、30代や40代の社員にはそうした選択の余地さえ与えられないことだ。60歳退職なら生涯賃金がざっと1割カットされ、65歳まで働いてようやくこれまでと同じ生涯賃金に届く。
65歳定年制という名の賃下げなのだ。
※週刊ポスト2013年2月15・22日号