ローンを組んでマイホームを購入しても、払い終えた時には資産価値はゼロ。それどころか周りは廃屋や空き地だらけ……そんな現実がこれからやってくる。
『下流社会』(光文社新書)などの著書で知られる三浦展氏(カルチャースタディーズ研究所代表)が、今後の不動産事情と地域間格差について予想する。
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私は昨年、仕事で訪れた埼玉県狭山市で2LDK、52平方メートルの中古マンション物件の価格が「390万円」だったのを見て一瞬目を疑った。マイホームの資産価値が事実上「ほぼゼロ」になる危険が現実のものとなったのだ。
「地価公示」を見てもバブル崩壊後、東京郊外の地価は基本的に下がり続けてきた。20年前に比べて5~6割減のところが多い。他方、東京・世田谷の三軒茶屋では約3割減で収まっている。
地価下落の理由は複数あるが、一番大きいのは日本が人口減少期に入ったことである。団塊ジュニアの住宅取得が完了しつつあり、次の世代は人口が減るばかり。新規で住宅を購入する人が減るのだから、値が下がるのは当然だ。
この大きな流れの中で、郊外住宅地の地域間格差が拡大すると予想される。若い世代を取り込める町とそうでない町の勝ち負けがはっきりしていくのだ。
魅力的でない町では高齢化と人口減少が著しく進む。かつてニュータウンと呼ばれた町が「オールドタウン」となり、住宅の値はますます下がる。さらに20年もすると、空き家も増え、独居老人しか住まないような「ゴーストタウン」と化す。自分の家だけ補修して価値を保とうとしても、エリア全体の価値が下がればどうしようもない。
それを防ぐには、ニュータウンで育った若い世代が住み続けたいと思う町をつくること。さらに他の町からも若い世代を集め、一度住んだら住み続けたい町、子供たちも住みたくなる町をつくることだ。
わかりやすく言えば、東京・吉祥寺のような町である。「住みたい町」として毎年上位にランクインするが、それは単に住宅があるだけでなく、緑豊かな公園があり、お洒落なカフェや趣のある飲食店、洋服のセレクトショップもあるからだ。
住民が求めるニーズを住宅地に付加すれば若者はその町に住もうとする。さらに今後は働きながら子育てしやすい環境、あるいは男女ともに、都心に出なくても自宅近辺で仕事ができる環境も付加価値となろう。
そのように住宅地全体をリノベーションしていく必要があるが、その一番の担い手は「住民」になっていくだろう。マンションの管理組合のような組織をつくり、住宅地全体の価値を維持向上していく活動を行なうのである。
例えば、空き家をリノベーションしてカフェなど住民が集まってくつろげる場所をつくる。あるいは、空き家を取り壊して更地にし、市民農園やドッグランをつくる。そうして土地の権利者に一定の借地料を払えるようにする。
地域のニーズに合わせて最も必要なものをつくっていく。行政任せにせず、住民自らが考えることが重要だ。
※SAPIO2013年2月号