国際情報

アルジェ人質事件 ロンドン、パリからの中継に違和感覚える

 1月に起きたアルジェリア人質事件では日本人10人が犠牲になった。事件の報道を見ていて不思議に感じた読者も多かったと思うが、日本の大マスコミで自社の記者が現地からリポートした例は皆無だった。アフリカで起きた事件をロンドンやパリから“衛星中継”している様には違和感を禁じ得なかった。
 
「ビザを申請したが、アルジェリア政府が外国メディアを嫌って発給しなかった」(大手新聞記者)というのが理由だというが、ならば他国の記者はどうやって入国したのだろうか。

「あのような事件が起きた場合、当事国と友好関係にある国や陸路で国境を渡れる隣国などでいち早くビザ申請すれば認められる例が多く、対応が早ければ入国できる。今回もそういうケースだった」とは、国際的に活動する大手通信社記者の弁である。要は初動の差というわけだ。

 今回、日本のメディアにそうした対応が可能だったかは検証しなければ断定できないが、普段から当局の発表をそのまま伝えることをニュース作りの基本にしているから、世界標準の取材競争に最初から参戦できなかった可能性もある。

 そう疑う理由のひとつは、日本の大マスコミだけが大騒ぎした「実名発表するかしないか問題」である。記者クラブは当初、政府が被害者の実名を発表しないことに不満を抱き、「アメリカは実名を公表した」などと、事件に直接関係ないことばかり“独自報道”した。

「実名を公表すべきだ」と堂々と言わないあたりも姑息だが、もし実名や家族の「悲しみ」を報じることが事件の悲惨さを伝えるために必要だという信念があるのなら、独自に調べて書けばいい。日揮社員を取材すれば被害者の人定は難しくなかったはずだ。それをしなかったのは独自取材の能力が低いというだけでなく、“当局のお墨付きがほしい”“横並びで報道したい”という体質が染みついていたからだろう。

 政治、行政、報道それぞれに恥部を見せた事件だったが、特に醜悪だったのは大マスコミではなかったか。

※SAPIO2013年3月号

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