日本国内だけを見れば2013年早々、円安を要因に金が買われた。しかし、為替相場で金取引に飛びつくのではなく、世界情勢を見ながら金保有の選択を考えるべきだと、シンクタンク代表の原田武夫氏は分析する。
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今年はひとつ懸念材料がある。中東戦争だ。イランの核開発を阻止するため、早ければ2月の終わりか3月にはイスラエルがイランを攻撃するとも言われている。
「有事の金」と思うかもしれないが、そうではない。中東戦争によって、原油高騰という別のファクターによって急激なインフレになり、金利が引き上げられて、逆に金価格は下がる可能性が高い。むしろ資産の安全な避難先として日本が選ばれる。結果、円安はストップし、再び円高に転じる。
世界の投資銀行やヘッジファンドという「越境する投資家」の動きは重要だ。金というのは金利のつかない商品だ。だから、他に投資する対象が出てくれば、資金は他に流れる。欧米は金融メルトダウンですでに資金が逃げ出している。そこで、欧米の投資家が注目しているのが日本なのである。日本はすでにバブルの初期段階に突入しているが、これからさらなるバブルが到来する。
もっとも安倍政権がバブルを引き起こしたと考えるのは誤りだ。むしろ主導しているのは財務省だ。巨額の財政赤字の削減を目指し財務省は既に株・不動産など政府資産売却を始めている。そして、それを見越して、優良資産を手に入れようと欧米の投資家が資金を「ジャパン・シフト」するため、海外の豊富なマネーが日本に流入してくる。つまり、金よりも日本への投資が優先されることになる。
一方、米欧がインフレ懸念から早々に金利を引き上げれば、金価格は暴落する。日本で政府保有資産を購入・転売して利益を出した後は、投資家は一転して日本売りを始めるだろう。早ければ来年半ばころには、そうした資本の逃避が始まる危険がある。「日本バブル」後に果たして金にマネーが戻るか否か、さらに目が離せない展開となるはずだ。
※SAPIO2013年3月号