天気は晴れのはずなのに、街は黒い霧に覆われ、ほんの十数メートル先も見通すことができない。化学薬品のようなにおいがたちこめ、呼吸しているだけで喉が痛む。せきが出るのは当たり前。前を見ても何も見えないから、街ゆく人は足元を見て歩いている──。
近年、中国の大気汚染が人々の暮らしに悪影響を与えているが、今年に入ってから事態はいっそう深刻化している。
2月6日、北京にある日本大使館は、現地に住む日本人駐在員やその家族、約150人に向けて説明会を開催した。その際に、汚染が進んでいる北京に住むことを「壮大な動物実験のような状況に置かれている」と説明。あまりにも劣悪な環境ゆえ、8日には日本政府が北京に医師団を派遣することを決定するほどの事態となった。
「子供のせきが止まらないので病院に連れていったのですが、同じように体の不調を訴える患者さんでごった返していました。とにかく外に出ないようにしていますが、近所のスーパーに行って帰ってきただけで、顔をふくと真っ黒に。もはや人が住むところではありません。夫には申し訳ないんですが、子供を連れて日本に避難しようか考えています」(北京に4年住む30代女性)
「もともと、北京は空がどんよりとしていることが多かったんですが、ここ最近の空の色はひどい。ついこの間も、夫の送り迎えで使っている道路で、何台も巻き込む玉突き事故がありました。見晴らしのいい道路なのに前が見えないんです。怖くて車も乗れません」(北京に10年住む40代女性)
「中国人は、何事も“没法子”(=どうしようもない)といって運命を受け入れることが多いのですが、さすがに今回は『日本人は帰るところがあっていいね』といった声が聞こえてきます」(仕事で北京を訪れた40代会社員)
こうした大気汚染は、今や中国全土に広がっている。中国環境保護省によると、1月29日には日本の面積の約3.8倍に相当する143万平方キロメートルがスモッグに覆われ、約8億人が影響を受けるに至ったという。
※女性セブン2013年2月28日号