「鉄人」金本知憲氏(元阪神タイガース)といえども、現役時代は多くのケガに悩まされていた真実を引退してから知ったファンも多かろう。苦悩を押し隠し、独り苦しみに耐えた野球人生。そんな金本氏が、いま世間を騒がせている体罰問題について語った。
──体罰の問題がクローズアップされている。強引な指導は時代に合わないのではないか。
金本:もちろん暴力はいけない。時代に関係なく、ただ怒りで若者を殴りつけるような指導者に感謝や尊敬の気持ちを抱く者などいるはずがない。しかし、それでも指導者や先輩は教えることから逃げてはいけない。
「最近の若い者は……」というのは、いつの時代も同じ。我々も言われた。今の若者が駄目になったと嘆く前に、自分たちが真剣に指導したりアドバイスしたりしているかを考えるべきでしょう。
目標を具体的に見せてあげれば若者はちゃんと努力できる。その姿はファンにも伝わる。僕の連続フルイニング出場記録を見て「登校拒否がなくなった」「風邪をひいても学校へ行くようになった」と手紙をくれたファンもいた。うれしいことです。
技術的なアドバイスはできても、モチベーションは教えられない。しかし、目標を持たせてやることは、モチベーションを高める手段の一つにはなると思う。自分に何が足りないかを選手自身に考えさせ、そのためにどのような練習をすればいいかをコーチが提案してやるのも一つのやり方だと思う。
── 一般社会でも通用するか。
金本:もちろん。最近の上司は嫌われたくないために細かいことを言わないとも聞きますが、もっと上司や先輩が部下の仕事に関わるべきだと思います。頭ごなしに言うとついて来ないので、相手に問題意識を持たせて具体的なアドバイスを送る。スイングが遅いと自覚していない者にスイングを速くする技術を教えても素直には聞かないでしょう。
お互いに共通の問題意識を持つことで、暴力に頼らなくても指導はできるし、指導したことで信頼関係が崩れることもないはず。若者の堕落は、むしろ指導者に責任があると思う。
──これからどんな人生を歩んでいくつもりですか。
金本:過去にしがみつくつもりはないが、21年間のプロ野球経験を後輩たちに伝えて、そこから何か吸収してもらえたらありがたい。今は本当に休めることがうれしいけど、野球をやめたら、もっと野球がやりたくなるんだろうというのもわかっている。
自分の人生を懸け、その人生をどう生きたか。ユニフォームを脱いでも、やっぱり野球人としてそれが大切だと思う。これから選手として野球は出来なくても、何か社会に恩返しできると思っているし、そういう生き方をしていきたい。
※SAPIO2013年3月号