日本でも大きな問題となっている中国の大気汚染。原因となっているのは、主に「PM2.5」と呼ばれる微小粒子状物質だ。熊本大学准教授(大気環境学)の小島知子さんが説明する。
「PM2.5は2.5μm(1μmは100万分の1m)以下の非常に小さな粒子のことで、その多くは硫酸塩です。石炭やガソリンを燃やすと二酸化硫黄がガスとして排出され、それが空気中で酸化されて硫酸塩になる。ほかに亜鉛や銅、スズなどの重金属も含まれていて、健康に悪影響を及ぼします」
PM2.5の厄介な点は、微小なため肺の奥深くや血管にまで入り込んでしまうこと。大分県立看護科学大学教授(生体反応学)の市瀬孝道さんは次のように警鐘を鳴らす。
「ぜんそくや気管支炎など呼吸器系の疾患を引き起こすほか、動脈硬化や心臓疾患、脳梗塞などを誘発する危険性があります。もともとそういった持病を持っている人や、小さな子供、高齢者は特に注意が必要です」
さらに、長期的に吸い込めば、肺がんのリスクが増し、命にかかわる危険性も指摘されている。2011年に発表されたカナダ・オタワ大学の研究によれば、PM2.5の濃度が1立方メートル当たり10μg増えるごとに、肺がんによる死亡率が15~27%増加したという。まさに“殺人物質”なのだ。
国立環境研究所のシミュレーションによると、“殺人物質”は1月28日午後以降、大陸から九州地方に襲来し、30日から31日にかけて大阪府や奈良県などで日本の環境基準(1日平均で、1立方メートルあたり35μg)を超える値を観測。その後も東へと範囲を拡大して首都圏や東北に広がり、2月5日には北海道旭川市で“基準値超え”を観測していたことが明らかになるなど、もはや列島全体をのみ込む勢いだ。
自らのホームページで大気汚染微粒子飛来予測システム「SPRINTARS」を運用している、九州大学応用力学研究所の竹村俊彦准教授はこう指摘する。
「冬は大気が安定しているので、PM2.5は発生源付近にとどまりやすく、日本への顕著な被害は抑えられています。しかし、偏西風によって高気圧や低気圧が西から東へ移動する春季になると、日本にPM2.5が飛来しやすくなります。ただし、日本まで飛来したときには、濃度は10分の1ほどまで薄まっています」
とはいえ、すでに基準値を大きく超える値を観測しているのだから、暖かくなるにつれ、危険が増すことに変わりはない。さらに、そこに黄砂が加わると、被害はより深刻化するという。
「3月頃になると、PM2.5の発生源である都市部よりも内陸の砂漠地帯などから、偏西風に乗って黄砂がやってきます。それにより空気中に漂う物質の量が一気に増え、よりいっそう呼吸器などに負担をかけることになるんです。しかも、黄砂の時期は長くなっていて、最近では5月の終わりまで続く。これからしっかり意識しなければなりません」(前出・小島さん)
※女性セブン2013年2月28日号