中国はどこまで横暴なのか。中国海軍が自衛隊の艦船に対しレーダーを照射しロックオンした事態は、国際的な軍事常識からすれば戦闘行為とイコールであり、危険極まりない挑発だった。
これまで極秘とされてきた情報が本誌取材でついに明らかになった。尖閣諸島を死守する海上自衛隊員たちは、さかのぼること1年近く前から、常に「FCレーダー(火気管制レーダー)照射」の脅威に晒されていたのである。
これから記す緊迫のドキュメントは、各メディアがこぞって報じている今年1月に起こった2件のFCレーダー放射とはまったく別の事件である。中国軍が横暴の限りを尽くしたその実態は、日本人であれば誰もが怒りを禁じ得ないものだった。
海自隊員たちが直面した戦慄の瞬間をつぶさに再現しよう。
2012年4月。海上自衛隊・P-3C哨戒機の機内は、いつもの静寂に包まれていた。
飛行していたのは、尖閣諸島からほど近い、東シナ海の公海上。排他的経済水域の日中中間線より日本寄りの海域だ。周囲を監視しつつ、普段通りの哨戒活動を続けていたのである。
しかし、突如として機内に緊張が走った。
〈ビー! ビー! ビー! ビー!〉
けたたましい警告音が機内に鳴り響く。
「まさか……。これは!」
乗員たちは一瞬わが耳を疑った。訓練では何度も聞いた音だったが、実際の哨戒活動の中で聞くのは初めての者が多かった。
「狙われてるぞ!」
「ロックオンされた!」
これまでに経験したことのない衝撃と緊張、そして恐怖。警告音は何者かによってFCレーダー(火器管制レーダー)が照射されていることを示していた。標的としてレーダーで追尾されていたのだ。
このままミサイルが発射されれば、間違いなく撃墜される――。それは、「死」を意味する。
乗員のひとりが、レーダースクリーンを確認した。レーダーの照射源と見られるのは、中国海軍の艦艇だった。
「このままでは撃墜される!」
「急旋回せよ!」
「チャフを射出!」 (※チャフ=敵のレーダーを撹乱させるための防御装置)
その言葉と共に、P-3Cの機体から、キラキラとした金属片様のものが空中に舞った。それとほぼ同時に、P-3Cは直角に折れるように急旋回し、トップスピードまで速度をあげた。
それからどれくらいの時間が経っただろう。いつのまにか、あのけたたましい警告音は聞こえなくなっていた。
「ふぅ……」
「助かった……」
乗員たちからは思わず安堵のため息が漏れた。興奮で顔を紅潮させていた者もいれば、緊張で青ざめていた者もいた。
だが、冷静さを取り戻した彼らの胸には、新たに別の緊張感が込み上げてきた。
「中国軍は、はっきり俺たちを狙っていた。奴らは正気なのか!」
※週刊ポスト2013年3月1日号